京都の街には探偵がよく似合う 書評家・三宅香帆の『謎解き京都のエフェメラル』レビュー

『謎解き京都のエフェメラル』レビュー

 京都には探偵がよく似合う。

 と、思っているのはどうやら私だけではないらしい。これまでにもさまざまなミステリー小説が、京都を舞台に誕生してきた。とくに有名な探偵たちが、京都を中心に活躍する小説といえば、枚挙に暇がない。たとえば「火村英生シリーズ」「アリスシリーズ」と呼ばれる有栖川有栖の小説たちは京都を舞台に展開される。あるいは『丸太町ルヴォワール』(円居挽)の小説のように京都の地名を掲げた小説も存在する。最近であれば、『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズ(岡崎琢磨)や、『京都寺町三条のホームズ』シリーズ(望月麻衣)も大人気で続刊が書店に並ぶ。そう、京都は探偵の多い街なのである。

 そしてまたひとり、京都に新たな名探偵が誕生した。京都の「神宮道西入ル」という場所に存在する事務所にいる、春瀬壱弥である。

神宮道西入ル 謎解き京都のエフェメラル PV

 本書の語り手は、京都の大学生である高槻ナラ。彼女の祖父は有名な弁護士だった。祖父のことを尊敬する彼女は、今も大学の法学部で勉強している。幼い頃、彼女は祖父に手をひかれ、京都の街を歩いていた。その記憶は、今も彼女が京都を好きな理由のひとつになっている。しかし四年前、祖父は突然この世を去った。祖父は事務所を遺した。そしてその事務所を継いだのは――春瀬壱弥という、探偵だったのである。

 生活能力がなく、珈琲と和菓子しか食べず、つかみどころのない三十代男性。しかし彼は「捜索のスペシャリスト」と呼ばれる、「依頼完遂率ほぼ百パーセント」の凄腕探偵なのだった。ナラは彼のことをどこか不審に思いながら、彼の解決する事件の調査にともに乗り出してゆく。それぞれ一冊三章にわたり、日常の謎や、人間関係を解きほぐすような謎ときが用意されており、癒されながら読むことのできる読者も多いだろう。

 本シリーズの魅力は、なんといっても読者が京都に住んでいるような心地になるほどの、京都らしさの充実っぷりである。たとえば、ナラたちの会話は、京都の言葉で展開される。京都を舞台にした小説は多くとも、案外京都の言葉を使った小説は少ないのではないだろうか。本書のゆったりとしたテンポやじんわり心に沁みわたる謎ときの様子が、どこか壱弥をはじめとした登場人物の京ことばによって、さらに味わい深いものにしている。刺激的で難解な小説に疲れた読者のことも、おそらく本書は楽しませることができる。それは登場人物たちの京ことばが生み出す効果が大きいのではないだろうか。

 そして京都の街をまるで歩いているような感覚にさせる、京都の描写や京都にまつわる小ネタの充実も楽しいところ。たとえば葵祭や時代祭、宵山などの京都の祭り。あるいは平安神宮や花見小路通や八坂神社といった京都の街並み。それらのさまざまな京都描写が、小説を彩るのだ。ナラと壱弥が歩く京都は、四季折々の楽しさを見せてくれている。

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