伊坂幸太郎が描く、時代を超えた対立の構造 作家8組が競演「螺旋プロジェクト」の試み
伊坂の立場は、彼の作風に見合ったものだと感じられる。未来を予言するカカシが殺される『オーデュボンの祈り』(2000年)でデビューした彼は、作者と読者には出来事の全体像がみえるが登場人物は自分たちがすれ違っていることに気づかないといった構成(『ラッシュライフ』『グラスホッパー』など)や、監視社会化が進んだディストピアで主人公が必死に抵抗するストーリー(『ゴールデンスランバー』『火星に住むつもりかい?』など)をしばしば書いてきた。それらでは、社会を高所から俯瞰的に見渡す、いわば神に近い視点と、枠組みのなかで生き延びようともがき、隙あらば飛び出そうとする地上の立場が対置されていた。
そして、アメリカとソ連、嫁と姑、二組のバランスのシーソーゲームが問題となる「シーソーモンスター」と、スピンとも呼ばれる情報操作によって人々が翻弄される「スピンモンスター」は、いずれも国家という高所と、主人公たちが小市民として暮らす地上とのせめぎあいで物語が作られていた。
というか、大きな枠組みとしてどの時代にも続く対立構造を用意した伊坂自身が、「螺旋プロジェクト」のスタート地点で神の視点的な位置にいた。同時に彼は、対立の構図のなかであがき、窮地から脱しようとする主人公を書いた。彼は本作に限らず、高所と地上の2つの視点をあわせもつことで、小説のダイナミズムを生み出してきたのである。
そう考えると、「螺旋プロジェクト」以前から伊坂が、他の作家やミュージシャンなどとしばしばコラボを行ってきたことも、納得できる気がする。創作に他者の発想が入れば、イレギュラーなことが起こりやすくなり、枠組みから逸脱する可能性が大きくなるだろう。それは、ダイナミズムを求める伊坂にとって望ましいことだろう。
「螺旋プロジェクト」は来年、作家陣の顔ぶれが入れ替わった形で第二弾が始動すると発表されているが、伊坂は参加継続が決定している。次回はどのような趣向がみられるのか、今から楽しみだ。
■書籍情報
『シーソーモンスター』(中公文庫)
伊坂幸太郎 著
発売日:2022年10月21日
価格:924円
出版社:中央公論新社
螺旋プロジェクト 特設サイト:https://www.chuko.co.jp/special/rasen/