ジェーン・スー、50代で見えてきた人間関係の築き方 「人を変えるより自分がそこから動くことに注力した方が良い」

ジェーン・スー 50代での人間関係の築き方

 コラムニストにして、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」やポッドキャスト「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」「となりの雑談」のパーソナリティとしても活躍中のジェーン・スーさんが約2年ぶりとなる単著エッセイ集を刊行した。

 新刊『へこたれてなんかいられない』は雑誌『婦人公論』での連載を大幅に加筆・修正したもの。本書には、50代に突入したスーさんの体の変化や、親との関係、仕事や友人づきあい、新たな趣味などが軽妙な語り口で綴られている。それらに頷き、ニマニマし、ときには鼻息荒く共感した思いを伝えるうち、話題はついつい「人生相談」に……(田幸和歌子)

思っていたものとはなにか違った50代

――ドラッグストアで爆買いの話が、ウィットに富んだオチも含めて大好きです。

ジェーン・スー(以下 スー):日用品をたくさん買うのって、なんであんなに楽しいんでしょうね。でも、私、地方都市に住んでいたらヤバかったと思うんですよ。体育館ぐらいの大きさのドラッグストアがあるから。長時間滞在して結構な金額を使う、変わった客だと思われていたはず。都心にも結構大きいドラッグストアが増えてきたので、十分楽しいんですけどね。正直、商品の中身はどれもそんなに変わらないけれど、パッケージやコピーの違いで、こんなにも簡単に私の購買意欲は刺激されるのかと。

――私はスーさんと同い年なんですが、50代を「インディペンデント(独立、自立している)」な時期としつつ、「思っていた『五十歳女性』とはなんか違う」と書かれていたことに、深く共感しました。

スー:50代は思っていたより自由で楽しく、縛られることなく過ごしています。ただ、それは、私の住んでいる場所が東京だったり、こういう仕事をしていたりすることによる部分も大きい。それでも、世の中の雑踏やSNSなど見ていると、昔の50代に比べたら良くも悪くも子供っぽくいられるんじゃないかなと思います。

――そういう意味では、良い時代だなと思うところも?

スー:そうですね。経済や社会の面で課題はたくさんあるので、手放しで良い時代とは言えないと思うんですが、こと50代ぐらいに限って言えば、女性が自由にやれる範囲は昔よりずっと広がったように感じています。私と同年代の人達って、それこそ就職氷河期の第1期や第2期で、今、食べていくのが精一杯だったりキャリアが停滞してしまったりしている人がたくさんいることを知っているので、呑気なことは言っていられないんですけどね。ただ、正解が1つという時代ではなくなったのかなと思います。

囚われている価値観から脱却することの難しさ

――本書の中には今、世の中で起こっている様々な問題に対する1つの答えがあるように思いました。例えば、20代男性の「ネオ・やさしさ」。各所で表面化している性加害問題なども、ある種男性の「強さ」への思い込みと執着につながる部分がある気がして、今の20代が我々世代になる頃には世の中が少し変わっているんじゃないかとも思います。

スー:加害者になる可能性は、本質的には世代で区切れるものではないと思います。それぞれの境遇や生育環境などに左右されますし、若い世代でいじめがなくなったわけでもないと思うので。ただ、女性をモノのように扱っていいとか、男性は競争に勝つことが何より大事だとか、細かいことを気にするより大きなことを考えなきゃいけないというような、よく考えたら誰が言い出したのかわからない価値観に中年たちがとらわれていると、結果的に下の世代に対しての加害行為につながる可能性は否定できないと思います。

 男の人は、自分の弱さみたいなものを同性となかなか共有することができない、それをみっともないとか恥ずかしいと思うように教育されてきているところがあるので。そこは自分たちで気づいて変わっていかないと、確実に社会から取り残されるわけですけど、その競争から簡単に降りられるかといえば、結構難しいのが現実ではないでしょうか。

――若い世代との差を感じたのはどんな場面ですか。

スー:例えば20代の男性たちと食事に行くと、お酒をあまり飲まない人もいる。それが珍しくないんですよね。飲めるか飲めないかじゃなく、「飲めるけど、今日は別に」とか「このメンツでは別に飲まなくても」と。ある種の同調圧力的に負けて飲まざるを得ない場面は今の20代にもあると思うんですけど、飲まなくていいメンツだったら飲まないという選択肢があることが、今の40代50代には信じられない人もいるんじゃないですかね。 私が20代だった頃、男性は特にアルコールが飲めないことがなかなか許されない空気がありました。

 その後、飲めない人には無理やり飲ませないことが一般的になって、あくまで嗜好品だから、飲める体質でも飲みたくないときは飲まなくていいというチョイスが出てきているのが現在地点だと思います。一部では、お酒を飲むことで連帯や強さを表す必要がないという現象が起きているわけです。お酒の場面だけ変化しているはずはないので、おそらく他のことでも柔軟になっている価値観の変化に、40代50代60代は気を付けないといけないですね。

人を変えるより自分が変わった方が早い

――私は娘が20代なんですが、スーさんが書かれていたように、その世代は男女問わず人を尊重することや優しさがデフォルトになっている気がします。

スー:人間なので、もちろん20代の人にも嫉妬心や執着、後ろめたくなるようなことをしたくなる気持ちは当然あると思うんですが、身内を褒めるような、上の世代にとっては「恥ずかしい」とされることが臆面なくできる人が、若い世代に増えているのは実感としてあります。素晴らしいと思いますね。

――こうした変化はどこがきっかけになっているんでしょう。

スー:自分たちが親にやられて嫌だったことは、自分の子どもにはやらないようにしている親も多いのではないでしょうか。上司、先輩、親といった、自分より権力がある人たちから揚げ足を取られたり、からかわれたりすることが、私たち世代にとってはデフォルトだったと思うんですよ。からかったり、1回の失敗を執拗にネタとして扱ったりするのって、我々の世代ではコミュニケーションの一種ととられていた側面があります。でも、いまは違いますよね。同じことを下の世代にやってしまうと、本当にギョッとされると思います。

――こういう話をピントが合っていない層に届けるにはどうしたら良いでしょう。

スー:うーん、私は是が非でも届けようとは思っていないです。自分で気付くこともできる話ですから。相手を変えるより自分が変わった方が早いですし、健康的でもあります。もちろん、加害を許すことでも、無視することでもありませんが、古い価値観に囚われ続けている集団に、わざわざこちらから歩みよって時間をかけて説明し、理解を求めるようなことはしません。こちらのスペースに不躾に入ってきたら強く抗議はしますが。

――例えば、妻が夫に変わってほしい、若い人たちが上司に変わってほしいみたいなときはどうアプローチしたらよいでしょう。

スー:仕事の場合、私は「転職を検討してください」と答えます。いろんな理由があって今すぐには動けなくとも、そこから移動する自由がないわけではないし、未来永劫動けないわけではないし、努力をするなら、人を変えるより自分がそこから動くことに注力した方が良いと思うようになったんです。辛い状況なのは理解できるので、「大変ですね。少しずつ変えていけたらいいですよね」と答えれば、その場は丸く収まります。でも、その答えに満足して、結局何も動けないのであれば、それはもったいない。だったら自分が動く方がいい。

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