朝井リョウ × 根本宗子 盟友の本音対談「若者のリアル」を描き切った先には何が見える?

朝井リョウ × 根本宗子 特別対談

 朝井リョウの『死にがいを求めて生きているの』(中央公論新社)が文庫化された。2009年に『桐島、部活やめるってよ』でデビューし、作家生活13年目にして世に送り出してきた作品は20作以上。文学界をハイペースで走り続けてきた朝井が「盟友」と語るのが劇作家の根本宗子だ。

 根本も同じく、2009年に劇団・月刊「根本宗子」を立ち上げ、主宰劇団の本公演だけでも20作近くを手がけてきた。今年は自身の戯曲を小説にすることにも挑戦し、早くも2作目となる『もっと超越した所へ。』(徳間文庫)を9月に出したばかりだ。 

 奇しくも二人は1989年生まれの同い年で、今年33歳。文学界と演劇界と、業界は違えど、二人とも若くして注目を集め、活動年数のわりに多作である。今回、そんな二人の対談が実現した。作家として今抱える悩みや今後の方向性について、盟友同士だからこその本音トークをお届けする。(イワモトエミ) 

第一線で活躍する二人が直面した壁

朝井:初めて会ったのっていつだったか、覚えています? 

根本:20代半ばくらいに、テレ朝動画で夢眠ねむちゃんと一緒にやっていた番組に朝井さんがゲストに来てくれたのが最初じゃないかな。確か、ねむちゃんが朝井さんの本の帯にコメントを書いていた縁があって。 

朝井:そうだそうだ。でも、そのときはそんなにお話はできなかったんですよね。 

根本:その後、「根本宗子の面談室」というロフトプラスワンでのトークイベント(2016年)にゲストで来ていただいたんですよね。 

 あの頃は……、楽しかったですね。何にも気にしなかった。 

朝井:学校で調子乗ってる「うちら最強★」系のほとばしり方してましたよね。「何でもやってやる!」みたいな。今は「進路、どうする?」という感じ。カサカサしています。 

根本:どうしても仕事で新作を書き続けなきゃいけないですからね。朝井さんだったら、この日に小説の新刊を出すって決まっているだろうし、私だったら舞台の初日は決まっていて動かせない。毎回、周りのみんなは我々のことを「ポンポン新作書ける人間」と思っている。それが怖いんですよね。 

朝井:特に長編の物語は、毎回、何かしらの“激奇跡”が発生して偶然完成しているようなものなんですよね。期間1年のピタゴラスイッチみたいな感じで、長期にわたっていろんな難関を乗り越えてコロンってどうにか出てきた奇跡の1玉を毎回献上しているんですけど、その玉をすごく簡単に差し出せると思われている感じがあって、怖い。すごいサラッと「202×年×月目安で書き下ろし長編をお願いしたいです。テーマはお任せします」みたいに依頼されると、目眩がするようになりました。この人に一体どこから説明しよう……って。 

根本:以前は、なんていうか、怒りを原動力に書いていたところがありません? 

朝井:はい、はい。 

根本:それがそうは書けなくなってきて。世の中に優しくなっちゃったんですよね。 

朝井:みなさん聞いて下さい、私たち、丸くなったんです。年齢重ねたあるあるなので、特にとりたてて言うことでもないんですけどね。 

根本:最近は常に凪モードで生きているんですよね。書くことって基本的に一人の作業だし、もともとそんなに友達も多いほうじゃないのにコロナ禍でさらに一人の時間が増えて、日常に刺激があまりなくなった分、余計に書きづらいというのもあります。でも、凪モードのほうが人生は生きやすいんです。今生きやすいからこれは守り抜きたい。 

朝井:昔ある人が「地獄にいない人の書く話はつまらない」みたいなことを言っていて、フーンって感じだったんですけど、生きやすさと働きやすさが比例しない職業、厄介ですよね。 

 書きづらさでいうと最近すごく思うのが、私は最大公約数を捉えて書くのが得意だったんだな、もうそのやり方では立ち行かなくなっていくんだな、ということ。例えば学校生活ってほとんどの人が経験していることだから、その話を書けば自動的に最大公約数を捉えることができて多くの人に「わかる〜」となってもらえたけれど、やっぱりこのぐらいの年齢になると生き方も働き方もバラバラ。最大公約数というものが存在しないというか。だから、今更ですが、フィクションをしっかり作る力を培わなきゃいけないんだ、と思ったりしています。今までの作品は、「こういう気持ちってあるよね」みたいに、何となくわかる・共感するという形で読んでもらえていたけど、それに加えてストーリーラインを追っていくだけで面白いという要素がないと今後厳しいだろうなーって。 

 あと、ありがたい話なんだけど、年々依頼いただく仕事の規模が大きくなっていくのも怖くないですか? 私、今33歳で、日刊の新聞連載をやっているんですけど、昔の考え方だとこれって小説家の最終局面の仕事なんです。能力的にも年齢的にもまだ駆け出しの感覚なのに、作品を発表する環境が大きくなっているのが不安。根本さんも、舞台の規模、どんどん大きくなっているよね? 

根本:関わる人も増えていくしね。 

朝井:どこかで、どんどん規模を大きくしていく拡大路線ではないやり方を意識的に見つけていかないと、実力との乖離がすごいことになりそう。業界内のしきたりから離れた独自路線というか。

根本:演劇はそういう人が多いですね。でも、女性で作・演出をして大劇場を担当する人は稀なので、追いかける背中がない分、どうなるんだろうという気持ちもあります。 

朝井:寄り道や回り道をもっとしてもいいんだよね、きっと。それで言うと、根本さんも私も、ラジオとか本業以外の仕事をやらせてもらえたのはすごくありがたいことだよね。そういう仕事をしたことで、この人には本業以外の、楽しい風味の仕事もオファーできるんだって思ってもらえた感がある。小説家への執筆以外の依頼って、シンポジウムとか講演会とか、そういう真剣な顔で臨む系のものが多いんです。そういうのに一人で行って怖い顔で話して一人で帰るの。単純に、「楽しい!」ってなる時間が少ないんだよね……。ラジオは、単純に楽しかった。

根本:そうですね。そういうくだけたお仕事があるとオファーの可能性も広がるし、読んでくれたり観てくれたりする人たちの幅も広がりますよね。自分で作っているものだけでファン層を広げることには限界がある。

朝井:本業では増やせなかったファンがついてくださるよね。これまでは、作家としてどう在るべきか、作家として作品や言葉を介して社会とどう関わっていくべきかみたいなことを怖い顔で考えがちなタイプだったんですけど、この数年、コロナ禍を含めて本当に色んなことがあって、考え過ぎて頭がバーンってなって、作家としての在り方云々よりもひとりの人としてどう生きたいか考えるようになっちゃったんですよ。人生の中で楽しく過ごす時間を増やしたいなと思うようになった。単純に、笑っている時間を増やしたくなったんですよね。 

根本:前に電話でこの話をしたときに、やっぱり友達だなって思った(笑)。もちろん全部が一緒じゃないですけど、似たことを感じる瞬間があるから、喋っていて楽しいんだろうなって。 

 私もコロナ禍になって、「あ、自分やっぱりけっこうただの人間なんだな」と思ったんですよ。朝井さんと出会った20代半ばごろは、世に出たい、面白いって思われたい気持ちが大きくて、前へ前へという力が強かったんですけど、ほんとはそっち側じゃなかったんだなと思った。 

朝井:意外だったよね。生粋のそっち側だと思ってたじゃん。でも、前へ前への力が発揮されるのが我々は早かったのかも。20代半ばとか、異常に頑張っていたと思う。 

根本:根性ありすぎたんですよね。それをずーっと続けていたら、鬼になる。鬼になりたいわけじゃないわ!わたし!って気がついちゃいました。 

朝井:そう。我々が20代半ばのままやっていたら、周りの人たちのちょっとしたミスに激ギレするような全く優しくないモンスターが誕生していたと思うよ。作家としてはいいことなのかもしれないけれど。 

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