10万部突破の韓国ホラー小説『カクテル、ラブ、ゾンビ』チョ・イェウンに聞く社会問題をホラーで描く理由 

 

韓国の新進気鋭作家・チョ・イェウンによる話題沸騰中のホラー短篇集『カクテル、ラブ、ゾンビ』(かんき出版)

  韓国で2年連続年間ベストセラーとなり、10万部を突破した新進作家・チョ・イェウンによる話題のホラー短篇集『カクテル、ラブ、ゾンビ』の翻訳版がかんき出版から発売され、日本でも話題を集めている。韓国版「世にも奇妙な物語」ともいえる不思議な読後感が特徴的な作品だ。

  韓国で気鋭作家として知られる、チョ・イェウンは、「ホラー小説の題材を借りて、現実の社会に存在するやるせない感情の物語を書いている」と語る。その言葉どおり、ホラー小説といっても刺激や恐怖だけに満ちているわけではなく、ガスライティング、環境破壊、家父長制、暴力といった切実な社会問題を描いている作品である。日本のコンテンツにも学生時代から深く慣れ親しんできたという、チョ・イェウンの特別インタビューをお届け。

■作家になるとは思っていなかった

ーー作家を志したきっかけについて教えてください。

  実は、学生時代まで自分が作家になるとは思っていませんでした。大学は美大に進み、金属工芸を専攻していたからです。ただ、趣味として小説や映画、ドラマなどのコンテンツが大好きで楽しんでいました。子どものころから周囲の大人たちには、「作家という仕事は全然お金を稼げないよ」と聞かされていましたし、小説家はとても頭の良い賢い人だけがなれる職業だと思っていました。

  その気持ちが変わったきっかけは、趣味である小説と、工芸作品をつくる過程に共通点があると気づいたからです。小説にはストーリーという大きな流れがあり、工芸作品もまずは大きな形を作ってから、少しずつ繊細に細工をしていくところが似ています。そう気づいてから小説を書くことに興味をもち、美大の教養科目から作文ができる科目を選択しました。そのなかで短編小説を書くという授業があり、「もしかしたらもう少し書けるのではないか」と思いました。

ーー何か手ごたえを感じたのですね。

  小説を書く過程が、興奮してしまうくらい面白かったんです。その興奮が、専攻していた金属工芸をしているときより上回っていました。工芸は抽象的な形を思い浮かべて、形にしていきます。一方、ストーリーを書くときは自分の心をより具現化して、物語の登場人物に感情移入させることができる。そのことに興味をもちました。

ーーそこから小説を書きはじめたのですね。作家として転機になった出来事はありましたか?

  はじめは小説を書くのがただただ好きで、98%は自己満足のためでした。狭い世界の中で、自分自身がおぼえた違和感や複雑な気持ちを掘り下げていたと思います。しかし、『カクテル、ラブ、ゾンビ』という短篇集を韓国で出版したとき、思った以上の反響があったことが転機になりました。「これまであまり本を読んだことがなかったけど面白くて、読書をするようになった」「純文学の小説だけを読んでいたけど、ホラー小説も面白いと知った」など、たくさんの声をいただきました。それからは、より世の中の人たちから共感を得られるものを書きたいと思うようになりました。ちょうどそのころに別の本の出版の機会もあり、より多様なテーマや実際に起きた出来事や事件を小説に取り入れてみたいという欲望が芽生えました。

■不公平をひっくり返すような作品を書きたい

ーー作品を通して、読者に伝えたいと思っていることやテーマについて教えてください。

  小説に盛り込みたいと思うメッセージは作品ごとに変化しますが、一貫して興味をもっているのは「変化していく人間」にまつわる物語です。世の中は、性別や人種、性格、職業などさまざまな違いによって公平ではない部分があると思います。私はそれを作品の中でひっくり返したいんです。実在する世界をメタファーとして描きながらも、不公平をひっくり返すような作品を書きたいと思っています。

ーーホラー小説マニアだそうですね。どんな点が好きなのですか?

  ホラー小説が好きな理由はいくつかありますが、一つは幽霊などの死んだ存在に興味があるからです。現実世界では、幽霊は「死人に口なし」と言われるように語ることができない存在ですが、ホラー作品では話したりもしますよね。その世界観がとても好きなんですね。できることなら幽霊と話をしてみたいし、そういった興味は自分の作品にも取り入れています。もうひとつの理由は、死や恐怖心のことがいつも気になって仕方がないからです。不気味なものや憂鬱な雰囲気が好きなんだと思います。怖い話を聞くのも大好きですね。

ーー『カクテル、ラブ、ゾンビ』はホラー小説ですが、怖いものが苦手な方やホラー小説をあまり読ない方でも面白く読める小説だと思います。読後感は、不思議と感情がとても揺さぶられました。小説を執筆される際には、どのような点を意識されていますか。

   私の小説の特徴は、幽霊などの死者の存在を借りて、社会問題や感情にまつわる話を書くようにしています。現実問題をありのまま書くのではなく、ホラーやファンタジーなどを舞台設定にすることで、より悲しみやつらさ、怒りなどの感情表現を最大化したいと思っています。

ーー読んでいて切なさを感じる作品が多いです。書いているうちにそういった作品になっていくのでしょうか、それとも最初からプロットに入れているのですか?

  どちらのケースもあります。もともと個人的な好みとして切ない物語が好きです。ホラー小説なので残酷なシーンや描写もありますが、物語として切ない部分を入れたいと思って書いています。そういった私の好みが作品に表れているのだと思います。

ーー今後、ホラー以外で書いてみたいジャンルはありますか?

  いつか書いてみたいのは、ホラーと対極にあるコメディやロマンスコメディなんです(笑)。読者を笑わせる作品は、人を恐怖に陥れることよりも難しいと思っています。先日、日本の『サユリ』という映画を観る機会があったのですが、ホラー映画だと思っていたら、終盤は笑いあり感動ありのストーリーでした。観終わった後「こんな作品を書いてみたい」と思うほど深く感動し、私ももっと頑張ろうという気持ちになりました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる