古川日出男が語る、いま『平家物語』が注目される理由 「激動する時代との親和性」

古川日出男が語る、平家物語

何度生まれ変わっても普遍的なものがある

――なるほど。古今東西、さまざまな人々の「思い」をパッチワークのように編み込んだものが、『平家物語』であり……そこにさらに、古川さんの現代語訳が加わったと。

古川:そう。ただ、それだけバラバラで不思議なものなんですけど、自分が最後まで訳してみて思ったのは……にもかかわらず、筋が通っているっていうことなんです。平家が滅ぶということが、とても悲しいことだっていうのは書いてあるし、いちばん最後に建礼門院(※平清盛の娘であり、安徳天皇の母である平徳子)が成仏するっていうことは、ある意味、平家だけではなく、みんなの魂を救うことなんだっていう。そこにちゃんと着地するんですよ。複数の「語り手」によるバラバラの話を読んでいたはずなのに、ちゃんと主題があったんだっていう。そこから立ち返って、冒頭からそれが響くような現代語訳にすることは、かなり意識してやりました。

――そうやって現代語訳を終えたあと、改めて『平家物語』の魅力とは、どんなところにあると思いましたか?

古川:今の話にも繋がってくることですが、やっぱり形を変えてもいいってことですよね。僕が現代語訳する際のベースにしたのは、「覚一本」と呼ばれている琵琶法師の「語り」のテキストなんですけど、それが成立するまでは、やっぱり紆余曲折があって……まあ、そのあたりのことは、『平家物語 犬王の巻』で書いたんですけど(笑)。で、その後も、『平家物語』は、能なり歌舞伎なり、他のいろんなジャンルの話に変わっていって……それこそ、僕の現代語訳をベースにして、アニメシリーズが作られたりするわけです。ただ、それでも本筋は伝わるんですよね。栄華を極めた平家が滅んでいって、そこからみんな、涙と共に何か教訓を得ていくっていう。いろんな形になっていっても、そこは変わらない。それこそ、輪廻転生ではないですけど、何度生まれ変わっても、ちゃんと普遍的なものがある。そこが、『平家物語』の何よりの魅力なのだと思います。(後編:古川日出男が語る、新たな『犬王』の誕生 「ある表現者の架空の自伝という思いで書いた」に続く)

■公開情報
『犬王』
5月28日(土)全国公開
声の出演:アヴちゃん(女王蜂)、森山未來、柄本佑、津田健次郎、松重豊、片山九郎右衛門、谷本健吾、坂口貴信、川口晃平(能楽師)、石田剛太、中川晴樹、本多力、酒井善史、土佐和成(ヨーロッパ企画)
原作:『平家物語 犬王の巻』古川日出男(河出書房新社刊)
監督:湯浅政明
脚本:野木亜紀子
キャラクター原案:松本大洋
音楽:大友良英
総作画監督:亀田祥倫、中野悟史
キャラクター設計:伊東伸高
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:アニプレックス、アスミック・エース
(c)2021 “INU-OH” Film Partners
公式サイト:inuoh-anime.com
公式Twitter:@inuoh_anime

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