『汝、暗君を愛せよ』×『幼女戦記』×『オルクセン』著者が語り合う“戦記ものの美学” ディープでドープな特別鼎談

『暗君』『幼女戦記』『オルクセン』鼎談

 本条謙太郎『汝、暗君を愛せよ』(DREノベルス/ドリコム刊)の人気がすごい。「このライトノベルがすごい! 2026」(宝島社)では発売わずか数か月で新作単行本・ノベルズ部門の1位を獲得し、2025年12月10日には待望の第2巻が登場した。『暗君』の何が凄いのか? 第1巻に推薦のコメントを寄せた『幼女戦記(以下、幼女)』(KADOKAWA刊)のカルロ・ゼンと、『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~(以下、オルクセン)』(サーガフォレスト/一二三書房刊)の樽見京一郎が本条を挟んで『暗君』の魅力を語り、本条からも『幼女』『オルクセン』の面白さが語られるスペシャルな鼎談が行われた。

 「戦場での葛藤とか戦闘とかを敢えて入れないところに美学を感じました」とカルロ・ゼン。「人間の内側を見ていく、とても難しいテーマを扱っているのに読みやすい。ページをめくる手が止まらない」と樽見京一郎。『暗君』を推薦するコメントと帯文を寄せた2人の人気作家から、『暗君』を褒め称える言葉が次々と繰り出される。

『汝、暗君を愛せよ』1巻口絵 ©Kentaro Honjo Illustration by toi8

 「マルクス・アウレリウスの『自省録』をエンタメにしたら、こんなに美しい苦悩の物語になるんですね。人間としての善性と立場を求められるロール(役割)での葛藤、異世界ものであまり意識されない価値観の違いが調和した大河になっています」と褒め言葉を重ねるカルロに、本条も「私が書こうと思ったのは個人の物語、個人の内面世界がどのように動いていくかということが主題で、そこを読み取って戴いたカルロ先生の慧眼が怖いです」と感謝した。

『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』挿絵
©Kyouichirou Tarumi  ©HIFUMI SHOBO イラスト/THORES柴本

 「私自身、小さな会社をやっているんですが」という樽見は、「会社や組織のトップは凄く孤独なんです。最後の決断を下すときはひとりでやらなくてはいけない。その孤独感が凄く表れているなと思いました」と実体験のこもったコメントをした。哲学や経営に通じた人たちをハッとさせる要素が盛り込まれているところに、『暗君』が広く世代を超えて評判になっている理由が伺えるやりとりだった。

 軍事や内政、外交といった国と社会の動きを、いずれも緻密に描いている点が特徴的な『暗君』『幼女』『オルクセン』だが、本条によれば『暗君』は、「軍事に関しては書いておらず基本的に内政のお話ですけど、あれは添え物なので最低限の形を整えることを意識しました」とのこと。戦略や戦術が目一杯に繰り出される『幼女』も、カルロから「実は戦略を書いたことないんですよ」と意外な答え。むしろ戦略がまったくない状況で、専門家たちが勝手に突っ走って起こる混乱を描こうとしたものだという。

 「ちゃんと書いているのは『オルクセン』だけですよ」というカルロに、樽見は「メインのテーマは最後まで開示されないので、その目的のために戦略をうまく書けたかというと恥ずかしい」と返答。ただ、「戦略ものや軍記ものを読んでいない方が読んでも大丈夫なように」、丁寧すぎると言われながらも説明を全部書いたことが緻密さに繋がったようだ。3人ともそれぞれに描きたいテーマがあって、それを成立させるために緻密な軍事描写や内政描写に励んだと言えそうだ。

 『オルクセン』『暗君』は国王、『幼女』は将校といずれもリーダーが主人公になっている。国なり組織を率いる立場と、個人としての思いがぶつかり合うような場面も登場する。現実でも起こりえるこうした問題について小説ではどう描いたのか。樽見は、「個人の感情や抵抗ではあらがえない時代になっていることを意識しました。国という恐ろしいものに王様でも飲まれてしまうものなんだ、というテーマを後ろに潜ませるようにしました」と上に立つことの困難さを指摘した。

 本条は、「私が意識したのはひたすら矛盾させていくというところです。人間は合理的に考えて何かを成そうとするけれど、感情では全然違う逆のことをやっていたりします」。そうした矛盾を繰り返すところに、人間としてのリアルさを感じ取れるという。カルロの場合は、「ターニャは中間管理職としてのジレンマはあっても、辞めて逃げることができるんです」と自作を分析。少し事情が違うが、最新巻まで逃げ出さないところを見ると、部下たちへの責任感なり、ターニャを苛烈な立場に置いた「存在X」への反発があるのかもしれない。それだけに、ターニャのこれからの振る舞いを気にさせるコメントだ。

『幼女戦記』挿絵 ©Carlo en Illustration by Shinobu Shinotsuki

 その「存在X」について、本条から「『存在X』と主人公の関係が私は“大好き・オブ・大好き”なんです!」という熱い言葉が飛び出した。「超越的な存在なのに理性があるように描かれていて皮肉に満ち満ちています。現代だからこそできる超越的存在と個の関係性を浮き彫りにしていくお話として拝読しています」と指摘した本条に、「こわ~い笑」と返したカルロ。科学や経済といったものを本来は禁じているような教義の中で、宗教が現実に即した判断を繰り出して辻褄を合わせてきたことを挙げて、本条の読みに答えを示した。

 最後に、本条が「『暗君』3巻が4月に出ます」と告知をすれば、樽見も「『オルクセン』は3月にコミカライズの次の巻が出ます」と応じ、カルロは「情報お待たせいたしました。TVアニメ『幼女戦記』の第2期、2026年放送です」と、それぞれさらなる盛り上がりを期待させて鼎談を締め括った。

左から、『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』1巻カバーイラスト ©Kyouichirou Tarumi  ©HIFUMI SHOBO イラスト/THORES柴本、『汝、暗君を愛せよ』2巻口絵 ©Kentaro Honjo Illustration by toi8、『幼女戦記』1巻カバーイラスト ©Carlo en Illustration by Shinobu Shinotsuki

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