小松左京、かんべむさし、笹沢左保……SFミステリーの復刊続々! 「トクマの特選!」が仕掛ける、名作のアップデート

「トクマの特選!」が面白い
山田正紀『妖鳥』

 お次は、「山田正紀・超絶ミステリコレクション」だ。『妖鳥』に続く第二弾から、「囮捜査官 北見志穂」シリーズを刊行。これは元々、トクマ・ノベルから全五巻で出版された警察小説である。違法ギリギリの囮捜査をする、警視庁・科捜研「特別被害者部」。そこに所属する〝生まれつきの被害者体質〟を持つヒロインが主人公だ。かなり癖のあるシリーズなのだが、面白さは抜群。他社で何度か文庫で出ているが、徳間書店への凱旋を喜びたい。

 しかも編集者から話を聞いたところ、完結となる五冊目に作者が満足しておらず、大幅に手を入れたリブート作品になるとのこと。まさにシリーズの決定版になりそうだ。

 「多島斗志之裏ベスト」と銘打たれた多島作品は、今のところ『クリスマス黙示録』しか出ていないが、こちらも先が楽しみ。サプライズが堪能できる、独自の謀略小説が続くことを期待したい。

中町信『追憶(recollection) 田沢湖からの手紙』

 そして最後は中町信だ。作者の死後、東京創元社の復刊により、中町作品は新たな人気を獲得した。現在、創元推理社と光文社文庫で、代表作を何冊か読むことができる。しかし、優れた作品は、まだまだあるのだ。なかでも、『田沢湖殺人事件』や『十和田湖殺人事件』など、トクマ・ノベルズで出版された、実在の湖+殺人事件というタイトルの長篇は、読みごたえのあるミステリーであった。

 「トクマの特選!」は、これをピックアップ。しかもタイトルを大胆に変えた。「死の湖畔 Murder by The Lake 三部作」と銘打ち、まず『追憶(recollection) 田沢湖からの手紙』を刊行。複数のトリックと、作品全体を覆う仕掛けに驚かされる快作だ。かつての新書全盛時代ならば、『田沢湖殺人事件』でOKだったが、さすがに現代では古臭く感じられる。それを一新して、今の読者にアピールする本にしたのである。

 たまにネットで編集者不要論を見かけるが、「トクマの特選!」を知れば、そのような意見は吹っ飛ぶだろう。作品の面白さは前提として、この時代に復刊する意味と意義を踏まえ、読者の興味を惹く意匠を本に施す。大いに称揚すべき編集者の仕事が、ここにあるのだ。

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