手塚治虫、松本零士、筒井康隆、萩尾望都……まさに70年代SFマンガの豊穣! 『SFマンガ傑作選』が面白い

『SFマンガ傑作選』が面白い

 福井健太編の『SFマンガ傑作選』は、1970年代の作品を中心にした、SFマンガのアンソロジーだ。表紙に“THE BEST OF JAPANESE SF COMICS”とあるが、まさにベストといっていい作品がセレクトされている。作品については軽く触れるに留め、ここではアンソロジーという見地から、本書の魅力を語ってみたい。

 まず、収録されているマンガ家を並べてみよう。手塚治虫・松本零士・筒井康隆・萩尾望都・石ノ森章太郎・諸星大二郎・竹宮惠子・山田ミネコ・横山光輝・佐藤史生・佐々木淳子・高橋葉介・水城和佳子・星野之宣。以上、十四人である。ビッグ・ネームである藤子不二雄と永井豪が漏れているのが気になるが、何らかの事情があったのだろうか。私も、小説のアンソロジーを作っているので分かるが、諸般の事情により、必ずしも入れたい作品を採れるわけではない。また、一冊の分量には限りがあり、無制限に収録するのは不可能。おそらくは涙を飲んで、何人ものマンガ家を断念したはずだ。藤子不二雄や永井豪を始め、収録されなかったたくさんの漫画家についても、解説で言及されている。それも含めて、アンソロジーとして楽しむべきだろう。

 前置きが長くなったが、そろそろ内容を見ていきたい。冒頭は手塚治虫の「アトムの最後」だ。手塚から始めるのも、『鉄腕アトム』の一篇を採るのも、実にオーソドックス。しかし「アトムの最後」を選んだことに、編者の企みを感じる。というのもこの物語、アトムは脇役であり、ロボットと人間の歪んだ関係を、ダークなストーリーで綴っているのだ。インパクトのある物語を最初に持ってくることによって、読者の意識を揺さぶり、先の作品にも期待を抱かせてくれるのである。

 また、三番手に筒井康隆の「急流」を持ってきた点も見逃せない。SF小説の巨匠である筒井のマンガを入れることで、アンソロジーのいいアクセントになっているのだ。しかもラストのコマを見れば、筒井がマンガ家としても一流であったことが理解できる。いいセレクトだ。

 さらに高橋葉介の数ある作品の中から、「ミルクがねじを回す時」を選んだことにも、編者の企みを感じる。これは「マンガ少年」に読切で連載された「ヨウスケの奇妙な世界」シリーズの一篇だ。ミルクという少女を巡る、五つのエピソードで構成された奇譚である。「ヨウスケの奇妙な世界」ならば、「墓堀りサム」のような、もっとSF味の強い作品がある。それなのに編者は、本作を選んだ。勝手な想像になるが、内容がトール・テール(ほら話)だったからではなかろうか。というのもSFには、トール・テール系ともいうべき作品がある。最近、早川書房から短篇集が立て続けに刊行されたR・A・ラファティなどが、よく知られている。このようなSF内のジャンルの広がりを見せようという意図があったと思われるのである。

 実際、本書に採られた作品のテーマは、バラエティに富んでいる。超能力・ディストピア・人類絶滅・タイムパトロール……。まさにテーマのショーケースであり、70年代のSFマンガの豊穣を教えてくれるのだ。

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