乾ルカ×モモコグミカンパニーが語る、スクールカーストとの向き合い方「同じ出来事も人によって違う捉え方になる」

乾ルカ×モモコグミカンパニー対談

二人が考える“小説の力”

――カースト、いじめ、SNSの問題など、とても繊細なテーマを扱った小説ですが、どこか希望も感じられるのもいいなと思いました。

乾:第一稿はもっと暗かったんですが、もう少し救いがあったほうがいいかなと思って。確かに難しいテーマなんですよね。何かを物申すつもりはないのですが、誰かを傷つけてしまう可能性はあるので。

――今現在、いじめやSNSの問題を抱えている人もいるでしょうし。登場人物たちは20代後半ですが、学生時代のカーストを引きずっている部分もあって。

乾:そうですね。岸本もそうで、「カーストなんか嫌い」と言いながら、ずっと引きずってますから。そこから逃れるのは、なかなか難しいと思うんですよ。

モモコ:カーストのトップにいても、プライドが捨てられないことに苦しんでいたり。何歳になっても、そういう悩みは変わらないんだなって。

乾:いくつになってもつきまとってしまう。みんな平等であれば平和なんでしょうけど、現実的には難しいですよね。

モモコ:自分たちの話になっちゃうんですけど、BiSHにはセンターがいなくて、それがすごく好きなんです。センターが決まっちゃうと、それこそ学校の教室みたいになりそうじゃないですか(笑)。私は初期メンバーなんですが、「絶対に偉そうにしない」って意識してるんですよ。新しいメンバーが入ってきたときも、「平等でいよう」と思って。この小説を読んで、その頃を思い出しました。

乾:モモコさんはそういう気遣いができる方なんですね。

モモコ:上下関係が苦手なんです(笑)。全員が同じようにいられるように、楽屋でもバランスを取るようにしたり。そんな巧みな人間ではないんですけどね。

――小説家という職業は、職場の上下関係とは無縁でいられそうな気もします。

乾:どうでしょうか。小説を書き始めたのは、北大の臨時職員を3年やった後、無職だったときなんです。自分では就職活動をしていたつもりなんですが、同居していた母は「本ばかり読んで、何もしてない」と思っていたみたいで。呆れられて、「そんなに好きなら自分で書いてみたら?」と言われたのがきっかけなんです。なので「上下関係や年功序列から逃れたい」みたいな思いはなかったですね。

――どこかに「いつか小説を書きたい」という気持ちもあったんですか?

乾:特になかったですね。いろいろと妄想はしてましたけど(笑)。

モモコ:同じです(笑)。私もエッセイを書いたことがあるんですが、小説を書いていて、いちばん苦しいことと楽しいことを教えてもらえますか?

乾:苦しいことはたくさんあるんですが、いちばんは小説を書くことを仕事にしたことですね。

モモコ:締め切りとかですか?

乾:それもありますが、どんなものでも、生活がかかると苦しくなると思うんですよ。

モモコ:わかります。音楽もそうで、BiSHをはじめてからカラオケに行かなくなったんですよ。カラオケで70点とか取っちゃったら、ステージで歌えなくなりそうで(笑)。

乾:私も(プロとしてデビューする前に)小説を投稿していたときは、書くことが楽しかったんです。お金や生活が絡まらないから。ただ、今も苦しいことだけではなくて、小説家になったからこそ経験できることもあって。こうやってモモコさんとお会いして話をさせてもらえるのもそう。こんな機会をいただけるのは人生の宝だし、小説を書いていなければあり得ないことなので。

モモコ:それは私もまったく同じです。新作を書くとき、テーマはどうやって決めるんですか? 何もないところから探すのか、それとも、もともと書きたいテーマがあるのか……?

乾:書きたいテーマの核になっているのものは、私のなかにあるんだと思います。そこに何か新しいことを取り込めればいいのかなと。

――モモコさんご自身も小説から刺激を得たり、力をもらえることも多いのでは?

モモコ:めちゃくちゃありますね、それは。現実で荒波にぜんぜん勝てない人間だし、BiSHも「まちがえてステージに立ってしまった」という感じのスタートだったんですよ。最初の頃はホントに苦しくて。自分の時間がほしかったんですけど、ただボーッとしてるだけだと仕事や“モモコグミカンパニー”から離れられないから、小説を読んで、別世界に没頭してたんです。その時間は本当に貴重だったし、幸せでしたね。その前から本は読んでたんですけど、本格的に好きになったのはBiSHをはじめてから。小説に救われた経験はたくさんあります。

乾:そうだったんですね。

モモコ:『おまえなんかに会いたくない』も、私みたいに過去を探るように読むのも
面白いですけど、スクールカーストの真っ只中にいる子が読めば、けっこう救われると思うんです。「今は苦しいけど、10年後はこんなふうに思えるようになるのかも」と思えれば、ラクになれる気がするので。

乾:もしそうなってもらえたら嬉しいです。自分が高校生のときも、何でもわかってたつもりでいたけど、「狭い世界にいたんだな」と思うので。

モモコ:そうですよね。BiSHのファンも若い子が多いので。ぜひ読んでみてほしいです。

■書籍情報
『おまえなんかに会いたくない』
乾ルカ 著
初版刊行日:2021/9/9
判型:四六判
ページ数:348ページ
定価:1760円(10%税込)
出版社:中央公論新社
公式サイト:https://www.chuko.co.jp/tanko/2021/09/005460.html
試し読みはこちら:https://fujinkoron.jp/articles/-/4496

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