乾ルカ×モモコグミカンパニーが語る、スクールカーストとの向き合い方「同じ出来事も人によって違う捉え方になる」
もしもモモコグミカンパニーがキャッチコピーを付けるなら……?
モモコ:どうやってキャラクターを構想するのかも気になりました。乾さんご自身は誰に近いのかな、とか(笑)。乾:高校時代であれば、名前もないようなモブ(その他大勢)だと思いますが、小説に出てくる人でいえば、“磯部”に近いかもしれません。
――卒業式の実行委員をつとめる、どちらかというと地味な男子生徒ですね。
乾:卒業した後は“空気”みたいになってるのが、ちょっと私みたいかなと(笑)。
モモコ:(笑)。“礒部”は闇が深そうですよね。
――小説は、高校時代と10年後を行き来しながら進んでいきます。SNSを介して、それぞれの感情や思惑、思い出が交差して。モモコさんも似たような経験、ないですか?
モモコ:私すごく後悔してるんですけど、BiSHをはじめたときに、同級生と繋がってるアカウントを削除しちゃったんです。同級生のアカウントは鍵付きが多いので、誰が結婚したとか、みんなの近況がぜんぜんわからないんですよ。
乾:そうなんですね。
モモコ:はい。なので(小説のなかで)SNSを通したやり取りを読むのは、すごく面白かったです。冷静を装いつつ、けっこうバチバチじゃないですか。もし私が帯を書くとしたら、「10年越しのリモート喧嘩」ですね!
乾:なるほど! いいですね。
モモコ:小説のなかでいうと、「この人とこの人がくっついたんだ!?」みたいなことも面白くて。たまに学生時代の知り合いにあったときに、同じような話を聞くこともあるんですよ。「え、あの二人が付き合ってるの? 高校のときは全然仲良くなったのに!」とか。あと、卒業して何年か経って、「実は好きだったんだよね」って言い出すヤツとか(笑)。
――(笑)。SNS普及後のコミュニケーションの変化は、小説家としても興味のあるところですよね?
乾:そうですね。私は「SNSを一切やらない」と決めて、仕事のアカウントも持ってなかったんですけど、今のご時世、SNSが出てこない小説を書くのは難しいんですよね。今の10代、20代にとって、SNSは外せないですから。なのでこの小説を書くにあたって、SNSの勉強をするためにインスタをはじめたんです。
モモコ:確かにSNSは欠かせないし、日常では話せない本音が見えてくることもあって。あと、グループで活動しているとSNSがどうしても必要で。それがないと自分のことも知ってもらえないので。特にコロナになってからは握手会もできないし、SNSが大事なコミュニケーション・ツールになってるんですよね。
――SNSによってファンとアーティストの心理的な距離が近づいたことで、様々な問題も起きていますが、そのあたりはどう感じていますか?
モモコ:コロナ禍になって1年くらい経った頃に、すごくイヤなツイートを見つけちゃったんですよ。明らかにこちら傷つけようとしているというか。
乾:悪意があった?
モモコ:はい。それ以来、どう自分を守っていけばいいか考えるようになりました。一人の時間が増えると、はけ口を探すこともあるんですよね。小説のなかにもそういう話があったし、そこも時代に沿ってるなと。コロナ禍になって、SNSで生存を確認し合うことも増えてるだろうし。
――この小説でも、新型ウイルスの感染拡大が描かれていますね。
乾:最初の打ち合わせは3年前だったので、当然、当初のプロットにはなかったんです。ただ、2020年6月に担当編集者から「コロナの要素を入れると、焦燥感が強まって、もっと良くなるのでは?」という話をいただいて。プロットを作り直すのは大変でしたけど、そこで興味を持ってくれる方も多いし、入れてよかったと思いますね。私は北海道に住んでいるんですけど、札幌はいち早く感染が広がってしまったんです。いったんは収まったものの、第二波が来るのも早かったし、SNSでも「北海道の人間は緩んでる」と叩かれて。私自身は一歩も外に出ていなかったから、かなり欝々としていたんですよ。その気持ちの一部を小説にぶつけられたのはよかったかもしれません(笑)。
モモコ:北海道の人じゃないとわからないことも書かれてますよね。
乾:そうですね。状況はどんどん変容しているし、もう少し時間が経ってから振り返ると、また捉え方も変わると思うんですよ。そういう意味では、今でしか書けなかった小説だと思います。