二ノ宮知子が語る、『のだめカンタービレ』と歩んだ20年 「やるからには読者の方に喜んでもらいたい」

『のだめ』二ノ宮知子インタビュー

20年で変化した、読み手の価値観と漫画を描く環境

二ノ宮知子『のだめカンタービレ 新装版(2)』(講談社)

――やっぱり携帯電話の形が変わっていたりとちゃんと20年の時が流れているのだなと思いました。この20年で漫画を描くということに変化はありますか?

二ノ宮:ありますね。漫画家ならみんな感じていると思うんですけど。新装版の1巻のあとがきに「昭和のギャグ漫画のノリで木槌で殴ってツッコミを入れているから本当に殴っているわけじゃないよ」みたいなことを書かせてもらったのもそうで。今の子が昔のカミナリ親父のげんこつシーンとか見たら「ええ、虐待じゃない?」って驚いているんですよね。“ああ、今の子はそういう感覚だよね“と思って。その時代を通ってきた自分でも「おかしい」と思うぐらいにはなったかなという。だから、時代と共に漫画の表現というのは変わっていくんだなって思いますね。

――あれですよね、『シティーハンター』の100tハンマーみたいな。

二ノ宮:そうです、それです。まあ、そもそもコメディなのでね。そこは当時から冗談が通じるのを信じて描いてきましたけれど。でも今回はもしかしたら新しい世代の読者の方も手に取るかもしれないと思って、注意書きを入れた感じですね。やっぱりショックを受ける人がいたらイヤだなと。

――でも、ミルヒーのセクハラについてはフォローはないんですね(笑)。

二ノ宮:それはちゃんと「この人最低だな」って思ってほしいので、そのままでいいと思っていました!

――(笑)。作業環境の面ではいかがですか? Twitterを拝見していると今はデジタルで描かれているようにお見受けしたのですが。

二ノ宮:『のだめ』連載時はアナログとデジタル両方だったんですよ。アシスタントがみんなうちに来て、ペンはちゃんと原稿用紙に描いて、それをスキャナーで取り込んでトーンは全部デジタルで。なんと、それをまた原稿に出力して集中線を描き足してってやっていたんですよ。

――すごい工程数ですね。

二ノ宮:どうしてもあの集中線とか演奏シーンの細かい線がデジタルじゃ、キレイに出なくて。というか、そもそも全て全部デジタルでやっていたらできたんですけど、最初の主線を絶対にペンでやる限り取り込まなきゃいけなかったので、その時に集中線が荒れちゃうんですよね。

――なるほど。現在は、この描き下ろしの漫画もすべてデジタルなんですか。

二ノ宮:はい。全部デジタルです。

――言われないと全然わからないです。でも、そういう線の違いみたいなところを味わいながら読むのも新装版ならではの楽しみ方ですね。

二ノ宮:そうなんですよね。でもまだちょっとデジタルはみんな四苦八苦している部分があって。もっとうまくなんなきゃなって思います。全面デジタルに切り替えたのも、このご時世でアシスタントがうちに通うっていうのが無理だなと思ったので、「いっそみんなでデジタルに飛び込もう」ってなったばかりで。たぶん事態が落ち着いても、このままリモートで作業していくようになるのかなと思います。

――そうだったんですね。先生はアナログとデジタルとどちらがお好きというのはあるんですか?

二ノ宮:前は絶対アナログだと思っていたんです。切り替えたばかりのころは苦労しましたけどね。でも最近はもうデジタルじゃないと生きていけないと思って。デジタルは拡大ができますからね。その恩恵は大きいです。

年齢を重ねるたびに見方が変わる、何度でも楽しめる本に

――現在連載されている『七つ屋志のぶの宝石匣』は「宝石について描きたかった」とありましたが、他にもいろいろ描きたいテーマというのはあるのでしょうか?

二ノ宮:いつも「もうないな」と思うんですけど、出てくるんですよね。あ、ここでは言わないですけど(笑)。連載中は目の前の物語に集中しているので、次に描きたいものに関しては、資料になりそうな本とかを集めておいたりしてます。割とニッチな趣味が多いんですよ。

――気になりますが、いつかそれが漫画として私たちのところに届くのを待っています! では最後になりますが、先生の中で『のだめカンタービレ』の世界というのは連載が終わったあと、どのような存在になるのか、お聞きしたいです。ずっとどこかの世界で生き続けて年齢を重ねていっているイメージなのでしょうか?

二ノ宮:私の中では、そのときの年齢のままで止まっていて「どこで何をしているっけ?」という感じなんですよね。みなさん、ありがたいことにのだめの誕生日なんていうと「今年で何歳になりましたね」って言ってくださるんですけど、私の中では番外編を描いた年齢で止まっていますね。だから、まだ30歳はいっていないと思っています。

――描くと時計が動き始めるという感じでしょうか?

二ノ宮:そうですね。実は今回の新装版、30ページくらい余っているらしくて。あの続きを描くことになるのかな、と。通常版の2巻分が新装版の1巻に入ってるんですよね。『のだめ』って全部で25巻だったんですよ。で、新装版が全13巻の予定で……って計算が合わないじゃないですか(笑)。単行本には入っていない『Kiss』本誌にしか載らなかった読み切りも収録されるみたいですけど、それでもページ数が足りないってなってるので、今ちょっと呆然としているところです。

――いちファンとしては大変楽しみにしています! やっぱりなかなか大人になると好きな漫画でも改めて読み返すタイミングをつかめなかったりするんですが、そのきっかけをくれる新装版だなと思いました。読み返してみると、また違った発見もありました。

二ノ宮:そうそう、このあいだ韓国のファンの方からすごく長文の感想をいただいたんです。そこに「歳と共に感想が変わっていって、『星の王子さま』みたいなところが好き」って描いてくくれていて。なんて素敵な感想だろうって思ったんですよね。「年齢と共に見方が変わる」っていうのは、すごくうれしかったです。

――たしかに、私も以前はのだめに近い感覚でしたが、今読み返してみると保護者視点でのだめを応援していますね。

二ノ宮:そうですよね。なので、ぜひ何歳になっても何度でも読み返して楽しんでほしいと思います。

■書籍情報
『のだめカンタービレ 新装版(1)』
『のだめカンタービレ 新装版(2)』
発売中
定価:1,320円(本体1,200円)
詳しくは、講談社コミックプラスのHPにて
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000357142

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