『かげきしょうじょ!!』なぜ杉本紗和に感情移入してしまう? 真面目な秀才&ガチヲタという人物像に迫る

『かげきしょうじょ!!』杉本紗和キャラ評

誰よりも早く渡辺さらさを認めた

 そんな紅華ヲタな紗和が、100期生の中で誰よりも早く、渡辺さらさをライバルとして意識しているのが興味深い。『かげきしょうじょ!!』1巻には、授業中の実技として「ロミオとジュリエット」を演じる100期のエピソードが登場する。紗和はこの時、「個人的にはE班は色んな意味で期待してる 特にさらさ」と、成績がほぼ最下位のさらさに注目する発言をしているのだ。

 いろいろな意味で目立ち、注目を集めていたさらさだが、クラスメイトの多くはこの時点では規格外な彼女の実力を評価していたとは言い難い。だが紗和は早い段階でさらさを好敵手として認め、文化祭の「ロミオとジュリエット」オーディションでは、真正面から彼女とティボルト役を争った。

 そして紙一重の差で、紗和はさらさに破れる。『かげきしょうじょ!!』7巻収録の第21幕は、オーディションの敗北を通じて、紗和の心情や葛藤が明かされる“杉本回”となっている。この時にブロードウェイのミュージカル「アマデウス」が引き合いに出され、天才のモーツァルトと秀才のサリエリの姿が、さらさと紗和に重ねられていく。

 結果に不満があるわけではなく、さらさのティボルトは素敵だったと認める紗和は、それでも自分には何が足りなかったのか知るために、安道先生の元を訪れた。それなりの実力と称賛があっても、努力型の秀才である自分は、渡辺さらさのような破天荒な天才にはかなわない。優等生が心に抱える劣等感や、さらさへの憧れを初めて口にする紗和の姿からは、高い実力を持つ者ゆえの苦しみやもがきが垣間見える。

 紗和はまた、最終決定を下した大木先生にも、なぜさらさを選んだのかを尋ねた。紅華歌劇OGでもある大木先生は、ファン層の中心を占める女性目線から2人のティボルトを比較し、「そうですね 今風に言うとすれば 渡辺ティボルトのほうが若干萌えが高かった!」と、さらさを選んだ理由を明かす。

  紅華ヲタである紗和は、このひとことですべてが腑に落ちる。「萌え」で説明されると納得度が跳ね上がるとうなだれる彼女の姿は笑いを誘うが、このユーモラスなくだりにも、斉木久美子による巧みなストーリーテリングが光る。

 そもそも紗和がオーディションでティボルト役にエントリーしたきっかけは、冬組の里美星演じるティボルトに萌えたからだった。5巻で紗和が口にした萌えという言葉で、自らの役作りの足りなさを実感するという構成が、実に見事だった。

 すべてに納得した紗和は、ティボルトに選ばれたさらさを祝福し、握手を交わす。第21幕には、ほかにも先輩の言葉に涙を流す紗和や、アニメでは削られてしまった鼻血エピソードなど、チャーミングな彼女の姿がふんだんに描かれている。アニメを見た人も、ぜひ原作でこの素晴らしいエピソードを味わってほしい。

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