冷凍室に閉じ込める? 読者の度肝を抜いた『ガラスの仮面』月影千草の特訓3選
1976年に連載が始まり、今も未完の『ガラスの仮面』(美内すずえ)。天才的な演技の才能を持つ主人公・北島マヤは、舞台の上で演じる役の人生を生きることができる。とはいえ天才であっても技術がなければ才能が花開くことはない。スポ根漫画の演劇版とも言える本作は、マヤが実力を伸ばすための度肝を抜くような特訓シーンも見どころのひとつである。
誰よりも早くマヤを見出したのが往年の大女優・月影千草だ。彼女は演劇史に名を残す名作『紅天女』主演を務めた唯一の人物である。マヤを後継者にするため厳しい特訓で鍛える。中でも選りすぐりの特訓内容を三つ紹介したい。
雪の中、納屋で役作り『たけくらべ』美登利(3巻)
月影が主宰する劇団つきかげの命運をかけた演劇コンクールがあった。その上演作『たけくらべ』で、マヤはヒロインの美登利に抜擢される。
しかしマヤの宿命のライバルとなる姫川亜弓も、同じ演劇コンクールで『たけくらべ』の美登利役を演じる予定だった。幼少期から舞台に立ち、美貌だけではなく演技力もずば抜けている亜弓を見て、マヤは打ちひしがれる。
月影千草はそんなマヤを稽古場から連れ出し、納屋の中に閉じ込めてシナリオを投げつけた。外は雪が降り積もっている。長い時間、納屋にいるうちにマヤの女優魂が蘇る。やがて納屋の外に月影が来て、マヤにいろいろな感情で美登利のセリフを読ませ指導をする。
マヤが亜弓に勝つためには、完璧な美登利ではなく新しい美登利を努力してつくり出し、強烈な印象を観客に残すことだと月影は訴える。マヤはこの言葉に奮い立ち、何日もかけて二人で倒れるまで稽古をする。
マヤの友人の劇団員はふたりを見て「怖いわ」と言うが、多くの読者も同じ気持ちだろう。
人形はまばたきもできない『石の微笑』エリザベス(8巻)
マヤが舞台に立てば、主役ではなくても人々は彼女に注目してしまう。マヤは自分を殺す演技を学ぶ必要があると考えた月影は、舞台『石の微笑』でマヤに人形のエリザベス役で割り振る。
人ではなく人形は物体だ。反射的に体を動かすことはもちろんないし表情も変わらない。月影は竹竿をマヤの体につけ縄で縛り、体の動きを制限する。そしてまばたきすら許さなかった。
マヤに自分を抑える演技を学んでほしいという願いからのキャスティングだが、人間がまばたきをしないなんて本来は不可能である。それを強いる月影も恐ろしいが、やり遂げるマヤも恐ろしい。
ちなみに月影の体は病に犯されていて、『石の微笑』の頃は入院もした。にもかかわらず彼女はマヤの特訓に熱を入れている。終盤まで月影は命の危機にさらされているのだが、マヤを指導する月影はどこかいきいきとしていて、紅天女の後継者を生み出すための特訓は月影の生きがいなのだと実感させられるエピソードだ。