『ファイブスター物語』永野護のストーリーテリングはデビュー時から完成されていた? 処女作『FOOL for THE CITY』を読み直す

『ファイブスター物語』永野護のデビュー作

 長らく入手困難だった永野護の『FOOL for THE CITY』(以下『フール・フォー・ザ・シティ』)が、昨年末、「2025 EDITION」として、KADOKAWAより復刊された。

 永野護は1960年生まれ。『重戦機エルガイム』(1984年~1985年)をはじめとするアニメーション作品のデザインワークの他、1986年連載開始の『ファイブスター物語』では漫画家としての才能を発揮するなど、ジャンル横断的な多彩な表現活動で知られるマルチ・クリエイターだ。

 『フール・フォー・ザ・シティ』は、その永野が、『ファイブスター物語』の連載を始める前の1985年から1986年にかけて、アニメ雑誌「月刊ニュータイプ」で連載した異色のロック漫画である。

※以下、『フール・フォー・ザ・シティ』の内容に触れています。同作を未読の方はご注意ください。(筆者)

マザー・コンピュータによって、ロックが弾圧されているディストピア

 『フール・フォー・ザ・シティ』の舞台は、2185年の地球連邦首都“メトロポリス”。地球連邦は、20世紀末から21世紀初頭にかけて勃発した大戦争を経て、誕生した統一国家である。

 その世界では、「ドウター」という名のマザー・コンピュータが全てを管理し、表向きは戦争のない平和な社会が形成されているのだが、裏では国民を扇動する恐れのあるロックや文学、演劇、絵画などのカウンターカルチャーの担い手たちは弾圧されていた(ひどい場合は、ロボットの機動ポリスによって処刑されていた)。

 しかし、一部のアーティストたちは情報管理局(メトロポール)の手を逃れ、世界各地の辺境に移住。その地で子孫たちにロックや文学などを密かに受け継いできたのである。

 そんな“彼ら”を、人々は「サクセサー」(継承者)と呼んだ。

“本物のロック”を知る少女との出会いが、主人公を変える

 なお、2185年の統一国家でも「音楽」は存在し、ポップスや歌謡曲のたぐいは認められている。また、楽器は全てデジタル信号を使った電子楽器となり、ライブでは大音量は出せず、観客はイヤホンをつけて演奏を聴かねばならない。

 主人公は、そんな「表現」が規制されている世界で音楽活動を続けている青年・ラス(ラッセル・コール)。「スーパーノヴァ」という人気バンドのビートリズマー(ベーシスト)だが、あるとき、彼は、ドウターに命令できる唯一の人間――“マシン・チャイルド”のログナーを暗殺しようとしていた異国の少女と出会う。

 少女の名は、アラニア・シャンカール・アンダーソン。サクセサー(ロック・ミュージシャン)だった父親を捜すために、ネパールからメトロポリスへ来たという彼女自身もまた、“本物のロック”を知るサクセサーの生き残りだった。

「自分たちのロック」を鳴り響かせるために

 そのあと物語は、スーパーノヴァのメンバー、マコトの死をきっかけとして、アラニアをバンドのボーカリストとして迎え、“本物のロック”をライブで演奏するために立ち上がるラスたちの姿が描かれるのだが、あらためて驚かされるのは、永野護の卓越したストーリーテリングの能力だ。

 永野護といえば、どうしてもヴィジュアル面での才能に目が行きがちかも知れないが、“物語作家”としても最初から(注・本作は永野の漫画家デビュー作でもある)完成していたということが、本作を読めばよくわかる。

 ちなみに、タイトルの『フール・フォー・ザ・シティ』は、70年代初頭にデビューしたブギーバンド「フォガット」の代表曲に由来するものだが、作中でも、主人公たちの心を動かす重要なロック・ナンバーとして描かれている。

 「俺は都会に旅立つんだ」、「俺は都会が好きでたまらないんだ」という歌詞が印象に残る同曲は、抑圧されたサクセサーたちの、再びでかいハコ(=シティ)でロックのビートを鳴り響かせたいという反骨精神を象徴するものだろう。

 ただし、ラスたちは、物語のクライマックスで、フォガットのカバーではなく、「自分たちのロック」を演奏しようとする。果たして彼らの命懸けのメッセージは、観客たちに届くのか。それは実際に、本作を読んで確認されたい。

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