『かげきしょうじょ!!』なぜ読者は奈良田愛に魅了される? 変わろうと努力を続ける姿を追う

『かげきしょうじょ!!』なぜ読者は奈良田愛に魅了される?

※本稿は『かげきしょうじょ!!』の内容に触れている部分がございます。未読の方はあらかじめご注意ください。

 大正時代に創設され、未婚の女性のみで構成される紅華歌劇団。斉木久美子による漫画『かげきしょうじょ!!』(白泉社)は、紅華歌劇音楽学校に100期生として入学した渡辺さらさや奈良田愛、そしてその仲間たちの青春群像劇だ。

 魅力的なキャラクターが多数登場する本作では、それぞれのキャラの背景を掘り下げながら、挫折や成長を描写していく。そんな『かげきしょうじょ!!』の中でも、奈良田愛はとりわけ大きな成長を遂げ、ドラマティックな変化を見せる人物だ。今回の記事では奈良田愛を取り上げ、成長を見せ続けるその姿を紹介していきたい。

男のいる世界からなるべく隔離されていたい

『かげきしょうじょ!!(2)』

 高い倍率を勝ち抜き、紅華歌劇音楽学校の門をくぐるのは、明日のスターを夢見る原石たち。だが国民的人気アイドルグループJPX48の元メンバーという経歴をもつ愛は、入学の時点ですでに有名人だった。

 アイドルなのに決して笑わず、グループ内でのあだ名は「ロボ」。JPX48の「奈良っち」は、特異な存在感でファンのハートを鷲掴みにし、“総選挙”でも13位に入るほどの人気を集めていた。ところが、握手会でファンに「はなしてキモチワルイ…」と言ったことが、ネットで拡散されて炎上。グループから強制卒業させられる。

 愛は子どもの頃、同居する母の恋人に無理やりキスをされ、極度の男嫌いになった過去がある。以後、唯一の理解者である叔父の太一だけに心を開き、何に対しても情熱をもつことがなく、無関心に生きていた。JPX48に入ったのも、女の子のみというコンセプトに心を惹かれたからだった。この時の彼女は、女性アイドルファンの大半が男性であることに気づいておらず、男嫌いが結果的に炎上事件を招いてしまう。

 アイドルに未練はない愛は引退を選び、次の選択肢として、紅華歌劇団を受験した。といっても、他の少女のような紅華への憧れも、トップスターへの思い入れもない。彼女が紅華に入った理由はただ一つ。団員もファンの客層もほとんどが女性という世界で、平穏に暮らしたいからだった。

「友達なんていなくていい 男のいる世界からなるべく隔離されていたい ただそれだけ」

 すべてに対して無関心で、楽な居場所を求めて紅華に進んだ愛。だが彼女はここで、渡辺さらさと運命の出会いを果たす。

 178cmの長身で、天然かつ天真爛漫なさらさは、「オスカル様」に憧れて入学早々トップスターになると公言する、空気の読めない規格外な少女だった。さらさは愛が元JPX48だということも知らず、ぐいぐいと距離を詰めてくる。

 2人は寮でも同室になり、愛はさらさを鬱陶しく思い、彼女に苛立ちながら日々を過ごしていた。現在連載中の物語の前日譚にあたる『かげきしょうじょ!! シーズンゼロ』は、愛とさらさが様々な出来事を通じてぶつかり合いながら、最終的には友達となるまでの物語である。その過程も興味深く、紹介したいエピソードが沢山あるが、2人の気持ちが通じ合うきっかけとなった場面をみていきたい。

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