ガチ恋、大人の事情、夢……2.5次元舞台の光と影 『りさ子のガチ恋♡俳優沼』『星と脚光』の問いかけ

松澤くれはが照らす2.5次元舞台の表裏

 そんな共通点があるものの、作品の読み口は異なる。『りさ子』にあった生々しさやエグさは『星と脚光』では抑えられ、爽やかさを感じさせる人間ドラマに仕上げられた。とはいえ、ストーリーは決して爽やか一辺倒というわけではない。作中には大手事務所の妨害をはじめ、芸能界ものらしい業界特有の大人の事情や、心の闇も描かれていく。それでも作品の根底に流れる人間のひたむきさや、夢を追いかける姿が放つまぶしさが、心をあたたかく照らし出していくのだ。この読後感も、天真爛漫な新人俳優マコトが放つ“光”なのかもしれない。

 タイトルにもなった「脚光」をめぐるやり取りは、地味ながら本作の真髄に迫る名場面として忘れがたい。そして物語のクライマックスを飾るまゆりとマコトの緊迫感あふれるシーンは、激白のなかでそれぞれの夢が交差し、心地よいカタルシスを生み出していく。

 舞台演出家であるからこそ描ける、ステージを彩る光と影。ファンと俳優の闇に鮮やかに切り込む『りさ子のガチ恋♡俳優沼』も、オーディション会場や稽古場など俳優がいる風景を熱量込めて描く『星と脚光』も、それぞれ異なる魅力にあふれている。ポップかつ現代的な作風のなかで、人間心理の狂おしさを展開する松澤くれはの今後の仕事にも、期待を寄せたい。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター、書評家。出版文化を中心に取材や調査・執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』、編著に『大人だって読みたい!少女小説ガイド』など。Twitter:@k_saga

■書籍情報
『星と脚光 新人俳優のマネジメントレポート』(講談社タイガ)
著者:松澤くれは
イラスト:冨士原良
出版社:講談社

『りさ子のガチ恋・俳優沼』(集英社文庫)
著者:松澤くれは

出版社:集英社

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