『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の描写は本当にリアルか? 週5で現場に通うドルオタが検証

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の描写は本当にリアルか? 週5で現場に通うドルオタが検証

 この1月よりアニメが放送開始となり話題の『推しが武道館いってくれたら死ぬ』は、地方のマイナーな地下アイドルChamJamの、内気な不人気メンバー・舞菜と、彼女を過剰な熱意で推す女オタ・えりぴよの関係を、リアルなオタク描写とメンバー間のドラマも含みでコメディータッチに描いた作品です。私はそれまでずっとメジャー系アイドルのオタクでしたが、’18年の9月にいわゆる“地下堕ち”をして以来、平日含め週平均5現場は地下ドルのイベントに通う生活をしています。地下キャリアはごく浅いのですが、今回“現役地下ドルオタから見て、『推し武道』で描かれている地下ドルシーンとオタク界隈はどれくらいリアルなのか?”というテーマで依頼を頂いたので、僭越ながら1巻から6巻まで、メモ片手に一気読みした結果を以下に綴らせて頂きます。

リアルすぎる“ガチ恋”の描写

 まず、第1話の冒頭の人物紹介的な部分で、オッサンのオタクと、いわゆるピンチケ……若者のオタク【注1】を、2つのキャラで分けてる段階で「お、この人(作者)分かってる!」と思いました。マンガやドラマで描かれるドルオタ像は、カリカチュライズされたキモいオッサン一辺倒になりがちですが、実際の現場はアイドルと同世代の若者も多く、またオッサンオタとピンチケでは価値観や行動パターンも大きく異なります。もちろん類型化され理想化されていますが、本作における経験豊富で余裕が感じられつつも、“古参マウント”がちょっとうざい「くまさ」と、推しへの恋愛感情が強過ぎてメンブレしがちな「基(もとい)」は、オッサンオタとピンチケの典型として、これまでのフィクション作品では見られなかった、画期的なレベルでのリアリティがあると思います。

 そして読み進むにつれて“リアルだなー”と何度も響いたのが、“ガチ恋”の心理描写でした。“ガチ恋”とはアイドルに本気で恋愛感情を抱いてしまって、アイドルとファンという距離感を見失ってしまうことです。そのモードに入ったオタクは、自分と同じ子を推してるオタクを排除しようとする“推し被り敵視”や、推しのちょっとした挙動を深読みして無駄に病むなど、恋愛感情をネガティヴな形で表出しがちです。主に基の、そして時折えりぴよのエピソードとして繰り返し描写されますが、第6話でえりぴよが、自分には塩対応の舞菜が基の妹と楽しげに話しているのを見て嫉妬して「わたしの心はいつの間にこんなに狭くなっていたんだ…」と述懐したり、第13話で基が、推しの空音の人気が落ちた方がライバルが減って自分的にはオイシイと思って一瞬闇落ちしそうになるあたりは非常にリアルな描写で、一度でもガチ恋にかすった人間が読んだら絶対“うわ〜痛いとこ突いてきよる〜!”ってのたうち回ると思います。

 それ以外の細かいネタでも、ファッション系のイベントに出られるとオタクが辛いとか、生誕祭の苦労と温かい空気感とか、後列の子が前列に来たときのオタクの号泣ぶりとか、広島の人気ロコドルの名前が「めいぷる(ハート)どーる」だったりとか(MAPLEZ【注2】というグループが実際に広島に存在した)、オタク目線で納得するリアルなあるあるは枚挙にいとまがないのですが、地味にいちばん驚いたのは、岡山のロコドルであるChamJamに東京遠征が決まったとき、メンバーみんな新幹線移動かと思ったらハードな車での10時間移動だったという部分。描かれる車もハイエースタイプで、移動中にスタッフの人が「まだ静岡…日本の半分が静岡なんでしょうか…」と嘆くのですが、この静岡から延々出れないって話は、実際頻繁に東京から名古屋や大阪に遠征する地下ドル運営の人からよく聞く話です。「ずっと視界にあるから、富士山が嫌いになるんですよ!」とまで言われたことがあって(笑)、「地下ドルのリアル」だなーと思いました。平尾アウリ先生のインタビューを読むと、ご本人も地上から地下までかなり長い期間ドルオタをやられてるようで、作品にするための取材というレベルではない、本当に血の通ったリアリティが全体に横溢していると思います。

 ただ逆に“ここはどうなのよ?”というツッコミ所はもちろんあって、まず第1話に出てくる“1,000円で会話5秒”というくだり。関係性の儚さを強調するためだと思いますが、現実にそんな地獄のようなレギュレーションのアイドルがいたら絶対活動維持できないはず! 実際の地下ドル現場は、一般的に1,000円〜1,500百円でチェキ撮って1分〜2分は話せます。あとえりぴよと舞菜の関係……特に舞菜のキャラクターに関しては、現実の地下アイドルの現場ではほとんど見かけないタイプな気がします。どんなに“陰キャ”だ“コミュ障”だって言ってるアイドルでも、物販ではタメ語でガンガン話すコがほとんどで、逆にその切り替えができない子は続けられない気がする。そして現役のオタクとして個人的にいちばん気になったのが、この作品では、地下ドルの営みのなかで、アイドルとファンとの疑似恋愛的な関係性という側面が余りに全面に出ていて、この楽曲が好きでブチ上がるとか、ライブで盛り上がって体動かして気持ちよかったとか、自分がオタ活で重要だと思っている半面は、ほとんど描かれてないんですよね。実際、いかに沸いて現場を楽しむかが至上命題で、ガチ恋勢を嫌うというタイプのオタクもいるし、推しが卒業してもグループを推し続ける人というのが結構多くて、それは恋愛感情より音楽性やコンセプトや現場感を優先するという価値観からだと思います。もちろんこの作品はオタ活のドキュメントではなく、あくまで中心はえりぴよと舞菜のラブストーリーなわけですが、もしこの作品に接して“地下ドルとかオタクってこんな感じなのか〜”と思った人がいたら、上記のような補足説明を句読点なしのすごい早口でしたいです。

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