『鬼滅の刃』剣の天才・時透無一郎が証明した“血の繋がりよりも大事なもの” 

『鬼滅の刃』時透無一郎の魅力

 ちなみにこのふたりの勝負の結末がどうなったかを、ここで詳しく書くつもりはない。ただ、ひとつだけ書いておきたいことがあるとすれば、それは、無一郎のそばには頼れる仲間たち――血ではなく心でつながった友が3人いた、ということだろうか。かつて兄の有一郎は、命の火が消えてしまう前に無一郎にこんなことをいった。無一郎の「無」は、「“無限”の“無”」なのだ、そして、「お前は 自分ではない誰かのために 無限の力を出せる 選ばれた人間なんだ」と。

 だから無一郎は、胴体を両断されようとも、体から大量の血が流れ出ようとも、歯を食いしばって、黒死牟の腹に突き刺した刀を最後まで手放さなかった。共に戦う仲間を信じて、自分ではない誰かを救うために、自らが捨て石になればいいと想って――。やがてその強い想いは握りしめた愛刀にも通じ、普段は白い無一郎の日輪刀の刀身は赤く変色して、黒死牟を体の内側からじわじわと痛めつけていく[注]。

 さらには、彼の気迫は仲間たちをも奮い立たせ、鬼殺隊最強といわれる「岩柱」と「風柱」のふたりに、いつも以上の壮絶な力を出させるのだった。そしてそのふたりの「柱」たちの武器もまた、激しくぶつかり合って赤く染まっていく……。そう――宇宙は“無”から誕生したともいわれているが、この「霞柱」の肩書をもつ時透無一郎という少年もまた、あの小さな体からは想像もつかないくらいの大きな力を生み出した、奇跡のような剣士だったといえるだろう。

[注]赤く染まった日輪刀は鬼に致命傷を与えるほどの強い力を得るが、従来、刀を赤く染めることができるのは、「日の呼吸」の使い手だけだと考えられていた。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。https://twitter.com/kazzshi69

■書籍情報
『鬼滅の刃(12)』
吾峠呼世晴 著
価格:440円(本体)+税
出版社:集英社
公式サイト

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