『鬼滅の刃』目を見張る必殺技の効果! 技の名前が長い理由も考察

『鬼滅の刃』必殺技の名称が長い理由を考察

 鬼殺隊の使う必殺技は、名称が長い。これは、まず呼吸術によって身体能力を上げてから必殺技を繰り出すという、二段構えの名称だからだ。たとえば炭次郎が初めて技を使った場面。「全集中・水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」は、「全集中・水の呼吸」と「肆ノ型 打ち潮」にコマを分割し、さらにその間に二コマ挟んでいる。つまり必殺技の始まりから終わりまで、四コマを使っているのだ。

 ここを読んで私は、面白い手法だと思った。そもそも必殺技とは一撃必殺が理想である。鬼を殺すために特別な刀を使う鬼殺隊だが、必殺技を出しながら、延々と斬り合ってしまうのでは、どうにもしまらない。だが、必殺技の名称を長くすることにより、コマの分割がやりやすくなり、表現の幅が広がっているのではないか。それが作者の狙いだと感じたのである。

 でもそれは勘違いであった。以後の物語で作者は、これぞという場面では、一コマの中に必殺技の名称を押し込めているのだ。しかしここで、名称の長さが生きてくる。大きく取った一コマの中の、右側と左側に必殺技の名称を分割して置く。そしてその間に必殺技を放つ主人公や、必殺技を喰らう敵の姿を描く(例外もある)。それにより必殺技の名称が、漫画のコマとは別の絵に対するフレームとなり、なおかつ絵と一体化した必殺技の表現として機能しているのだ。もし必殺技の名称が漢字二文字だったら、このようにフレームとして使用するのは不可能だっただろう。漫画の絵としての必殺技を際立たせる、素晴らしい手法だ。

 とはいえ鬼殺隊の敵である鬼は強力であり、炭次郎たちは常に苦戦を強いられる。必殺技ひとつで敵が倒れることは、ほとんどない。魅力的な必殺技の表現を使いながら、さらなるバトルの展開で読ませる。そこも作品の凄いところだ。まだ連載中であり、話の着地点は見えないが、このままのテンションでラストまで行けるなら、バトル漫画の新たなる傑作となることは間違いない。

(フォントによって表示が異なるが、本来「禰豆子」の「禰」はしめすへん)

■細谷正充
1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『鬼滅の刃』(ジャンプコミックス)1〜19巻(2020年3月現在)
著者:吾峠呼世晴
出版社:集英社
公式サイト:https://kimetsu.com/

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