『鬼滅の刃』19巻、バトルと同時に“人間を掘り下げる”作劇術 童磨との戦いで描かれた心の解放

『鬼滅の刃』19巻の作劇術に迫る

※本稿には単行本『鬼滅の刃』19巻のネタバレが含まれています。

 2月4日、『鬼滅の刃』19巻が発売された。本作は吾峠呼世晴が少年ジャンプで連載しているバトル漫画。舞台は大正。鬼に家族を殺され、妹の禰豆子が鬼になってしまった竈門炭治郎は、妹を人間に戻すために鬼滅隊の剣士として鬼に戦いを挑む。昨年のアニメ化から人気に火が付き、書店では単行本の品薄状態が続いている。この19巻の発売で、シリーズ累計発行部数は4000万部を突破した。

 現在、本誌では鬼たちの頭・鬼舞辻無惨と鬼滅隊の戦いが盛り上がりをみせているのだが、この19巻では無惨に仕える上弦の弐(ナンバー2)・童磨との戦いに決着が付き、上弦の壱(ナンバー1)・黒死牟との戦いの火蓋が切って落とされる。16巻から始まった無限城での戦いは、鬼滅隊の頭・産屋敷耀哉と鬼でありながら無惨と敵対する珠世によって追い詰められた無惨を追う鬼滅隊と、無惨を守る上弦の月との組織戦となっている。

 無惨を頭とする鬼たちの頂点である上弦の月と、鬼滅隊の頂点である「柱」の剣士たちという敵サイド(鬼)と味方サイド(鬼滅隊)の総力戦は、今までで一番スケールの大きい戦いなのだが、敵、味方、双方の過去の因縁が複雑に絡み合うことで、壮絶なバトル漫画であると同時に濃密な人間ドラマへと昇華されている。

 過去のヒット作の成功要素を巧みに取り入れたジャンプ系バトル漫画の正道に見える『鬼滅の刃』だが、ジャンプ漫画のセオリーをあえて外しているところも少なくない。たとえば『ドラゴンボール』等のジャンプ漫画では、戦いで死んだはずの敵が実は生きていて、次のエピソードでは味方となって共に戦うという展開がよく描かれたが『鬼滅の刃』は、これを禁じ手にしている。

 鬼滅隊の剣士たちがあっさりと命を落とす一方で、死んだ人間が生き返ることはないし、大怪我をすれば身体が回復するまでに、とても時間がかかる。そして、人を殺した鬼が仲間になることはない。こういった厳しい死生観は本作最大のテーマと言っても過言ではない。炭治郎を筆頭に、鬼滅隊の剣士たちの多くは、鬼に家族を殺されている。鬼たちは絶対悪で、だからこそ禰豆子の存在を、鬼滅隊は許さなかった。

 そんな中、炭治郎は禰豆子のことや(鬼でありながら人間を助ける)珠世のことを知っていたため、他の鬼滅隊にくらべると鬼に対して哀れみの感情がある。しかし、それでも根本の所では相容れない存在だと思っている。第3巻、死に際に「俺の血鬼術は凄いか」と言う鬼・響凱に「………凄かった」「でも」「人を殺したことは」「許さない」と炭治郎が返す場面は、鬼と人間の相容れない姿を簡潔に現している場面だ。だからこそ炭治郎は、「成仏してください」と願うことしかできない。

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