『鬼滅の刃』炭治郎の“息子力”に胸キュン!? 無尽蔵のやさしさの秘密に迫る

『鬼滅の刃』炭治郎の“息子力”とは?

30~40代読者から「こんな息子が欲しい!」とラブコール

 累計4000万部(紙・電子含む)を超え、テレビをはじめ多くのメディアに取り上げられるようになり、国民的マンガに成長した『鬼滅の刃』。老若男女に愛される同作だが、30代~40代の読者からは、主役である竈門炭治郎に対し、「こんな息子が欲しい!」という声が多くあがっているという。

 竈門炭治郎は御年15歳。たしかに30~40代から見れば、息子と言っていい年齢だが、ローティーン、ミドルティーンの主人公はジャンプ作品では珍しくない(『NARUTO』初登場時12歳、『ONE PIECE』ルフィ17歳。『幽遊白書』の浦飯幽助が連載開始時14歳で炭治郎よりも年下だったと思うと、「嘘だろ?」という気持ちになるが……)。

 炭治郎といえば、強い個性を持つ登場人物たちの中では、パッと見の性格や容姿はむしろ大人しめである。SNS上でも話題を呼んだ初代担当へのインタビュー記事(「『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話」)で、初代担当編集の片山達彦氏は炭治郎が主役になったのは“普通”だからだと語っている。「中心に普通の人を置いて、周りに異常性のあるキャラクターを配置するとちょうどいいのではないか」と作者の吾峠呼世晴氏に提案し、そこで白羽の矢がたったのが“竈門炭治郎”の原型となる人物だったというのだ。この提案は、『週刊少年ジャンプ』で連載中の『HUNTER × HUNTER』のゴン・フリークス(連載開始時12歳)の在り方を参考したそうだ。

 たしかに素直で真っすぐな性格、だれとでもすぐ打ち解けられる親しみやすさなど、炭治郎とゴンには共通点も多い。しかし、ゴンに対しては炭治郎ほど「息子したい」という声は聞かれない。なぜ、読者は炭治郎から高い“息子力”を受信してしまうのだろうか。

子育てバズツイートに通じる、炭治郎の「愛情」と「ボケ」

「俺は長男だから 我慢できたけど 次男だったら 我慢できなかった」

 これは、鬼から狙われやすい「稀血(まれち)」という珍しい血を持つ少年とその兄弟を守るために、元十二鬼月と戦うことになった炭治郎のモノローグである。『鬼滅の刃』を代表するセリフのひとつであり、作品を読んでなくとも、このセリフだけは知っているという人も多いだろう。このセリフには、竈門炭治郎というキャラクターをとらえるうえで重要な2つのポイントがよく表れている。

 1つ目は「家族への愛情」。「俺は長男だから」という言葉は、炭治郎が家父長制を内面化しているかのようだが、彼は鬼殺隊同期の不死川玄弥や霞柱である時透無一郎など「長男でない」相手を馬鹿にしたり侮ったりはしない。

 この「俺は長男だから」は、家父長制の肯定というよりも、自分が竈門炭十郎と葵枝(きえ)を両親をもち、禰󠄀豆子、花子、竹雄、茂、六太という弟妹をもつ、「竈門家の長男・竈門炭治郎」という事実によって自分を鼓舞しているように思える。「竈門家の長男」であることは、痛みを耐える根拠にできるくらい、炭治郎を支える太く強い柱になっているのだろう。

 設定においても、炭治郎は家族とのかかわりがほかのジャンプ作品と比べて、頭一つ抜けて強いキャラクターである。そもそも彼が鬼狩りを目的とする「鬼殺隊」に入ったのは、鬼化した妹の禰󠄀豆子を人間に戻すためであり、また、無惨に殺されてしまった家族の仇を討つためだ。本人も第一話で「生活は楽じゃないけど幸せだな」と感じていたように家族仲はたいへん良く、作品内でも家族の回想シーンがよく挟まれる。また、唯一生き残った家族である妹の禰󠄀豆子と同行することも多く、いやがおうでも「優しいお兄ちゃん」な炭治郎の姿を読者は目にすることになる。

 前述のインタビューで初代担当の片山氏は「大正時代は生活が大変なうえに兄弟姉妹も多かったので、今の時代よりも『長男』という意識が強い。きっと炭治郎もことあるごとに『長男なんだから』と言われていたはずです。そういった時代背景を考慮して、ああいったセリフになったのではないか」と予想しているが、筆者はそれだけではなく、竈門家の長男として幸せに過ごした14年間の思い出と家族への愛情が、炭治郎からまろび出たのではないかと思っている。

 彼が自分を長男だと感じるとき、炭治郎は今はもういない家族と常にともにある。それは炭治郎の強さの源であり、彼が周囲の人々(時に敵である鬼にさえ)に無尽蔵に与えるやさしさの苗床になっているのではないだろうか。

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