長編アニメ革命が世界で進行中? 新潟国際アニメーション映画祭から見えた潮流

長編アニメ革命が世界で進行中?

 アニメが生まれる場所も多彩になっている。『深海からの奇妙な魚』(2023年)はブラジルの作品で、カートゥーンと呼ばれるコミカルな動きのアニメを取り入れたような変幻自在の動きで、75分の上映時間をしっかりと引きつけるストーリーを作り出していた。若者たちが甲冑をまとい伝説の戦士となって戦うタイの『マントラ・ウォーリアー ~8つの月の伝説~』(2023年)は、タイ版の『聖闘士星矢』といった内容で、3DCGによるアクションをしっかりと見せてくれた。

『アリスとテレスのまぼろし工場』©新見伏製鐵保存会

 内容もルックも多様化し、製作国も多彩になってきている長編アニメの現状を分からせてくれた第2回新潟国際アニメーション映画祭のコンペティション作品たち。その中には、岡田麿里監督による『アリスとテレスのまぼろし工場』(2023年)もあって、「常識から外れた作品」(ノラ・トゥーミー審査員長)に贈られる傾奇賞を受賞した。日本の長編アニメでキャラクターもアニメを見慣れた目に違和感はなかったが、閉鎖された街で止まった時間を過ごす登場人物たちという設定や、光と影のコントラストが映える美術にオリジナリティがあった。

 その意味で“ジブリ的”なものから遠ざかろうとしたところがあった『アリスとテレスのまぼろし工場』だが、当のスタジオジブリが『君たちはどう生きるか』という少しダークなストーリーと、作画監督の本田雄の色が出た硬質な線でこれまでとは違ったところを目指し、それでアカデミー賞を取ってしまった。

『マーズ・エクスプレス』

 NIAFF2024で複雑なビジュアルや内容を持った作品に与える境界賞を受賞したジェレミー・ペラン監督によるフランス作品『マーズ・エクスプレス』(2023年)は、バンドデシネと呼ばれるフランスやベルギーで描かれている漫画のようなキャラクターや背景の上で、火星に人が住みロボットが普通に働いている時代に起こる事件を描き、AIが人間を超える可能性を指し示す。

 日本のTRIGGERが手がけた『サイバーパンク:エッジランナーズ』のルックと比べると“萌え”には欠けるが、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)やリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(1982年)が好きなら、展開を追っているうちに作品世界に引き込まれるはず。谷口ジローが夢枕獏の小説を原作に漫画にしたものをフランスで長編アニメ化した『神々の山嶺』(2021年)のように日本公開されれば、大いに話題になるだろう。

 成長が続き拡張も続いている世界の長編アニメはこれからどんどんと面白くなっていきそうだ。NIAFF2024ではコンペティションにノミネートされなかったものの、同性愛者の生活や心を描いた漫画が原作の『海門回声』のパイロットフィルム上映や、2023年のTIFFで上映された『深海レストラン』のビジュアルディレクターによるトークが行われ、中国の長編アニメが持つポテンシャルの高さを伺わせた。

 そうした世界の潮流に、ディズニーやピクサーが置き去りにされたままでいるはずはないだろう。NIAFF2024は、競い合い高め合った先に生まれてくる長編アニメへの期待を大いに高めてくれた。

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