冬ドラマの共通点に“政治不信”? 『日本一の最低男』『ホットスポット』の異なるアプローチ

『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)が3月20日に最終回を迎える。第9話からは“選挙編”が始まっており、最終話では大江戸区長選に出馬した大森一平(香取慎吾)の選挙の顛末が描かれる。
もともと本作は“選挙”と“政治”を描くことを主眼に制作されたと思われるドラマだ。物語は、不祥事を起こしてテレビ局を退社した大森一平(香取慎吾)が、世間とテレビ局を見返すためという非常に自分勝手な動機で選挙に出馬しようと考えるところから始まる。同居したシングルファーザーの義弟・正助(志尊淳)と子どもたちや、同性愛者のカップル、不登校児童の家庭をはじめとした町の人たちを選挙に利用しようとするが、誰かのために懸命に働いてしまう一平の性分もあってか、さまざまな問題と向き合ってまわりの人たちを助けていくうちに、より良い社会を作ろうと思うようになる。
本作に登場するような社会的に弱い立場の人たちを支援しようとするだけで、SNSで一斉に攻撃を浴びるような昨今、あらゆる人が生きやすい社会を作ろうと訴える『日本一の最低男』は非常に意欲的な作品だ。その根底には、根強い政治不信がある。

“選挙編”のベースになっているのが、大江戸区の再開発問題だ。4期16年も区長に君臨してきた長谷川(堺正章)は、子飼いの衆議院議員・黒岩(橋本じゅん)と結託して、駅前にタワーマンションを建築する大規模な再開発工事を推し進めている。防災対策という大義名分はあるものの、立ち退きを余儀なくされる地域住民とはまったく向き合わず、露骨に邪魔者扱いしていた。
政治への不信感が凝縮されていたのが、再開発に反対する銭湯の主人・高田あき子(市毛良枝)の言葉だ。長谷川と黒岩に住民の説得を依頼された一平に向かって、強い口調でこう言う。
「調子いいこと言わないで! 偉い人たちって、いっつもそう! あなたたちのことを考えてますよ、って顔をして、本当は自分の得のことしか考えてない! 自分たちの得のために、私たちを騙して利用する。馬鹿だから騙せると思ってるんでしょう? 騙して、持ち上げて、奪うだけ奪って搾り取って、あとはもう知ったこっちゃないんでしょう?」
政治家は、選挙期間中だけは美辞麗句を並べて頭を下げるが、実際は自分の利益しか考えていない。当選すれば、白紙委任されたと言わんばかりに好き勝手に振る舞う。不正が露見しても素知らぬ顔、差別発言まで行う議員もいる。批判されればネット工作でやり返す。それが、もはや当たり前の風景になった。だから市井の人たちが、このような思いを抱えるのだ。高田は、自分たちのような立場の弱い人間が政治家に「無視されること」や「切り捨てられること」が悔しいと涙ながらに訴えていた。その言葉が心に響いた一平は公認を返上し、長谷川と黒岩を敵に回して無所属で選挙に出馬する。

区長選挙がどのような結末を迎えるのか、パワハラの常習犯でネット工作を行っていたことも示唆していた長谷川区長は再開発計画にどのように絡んでいたのか、一平の社会を変えたいという思いはどう結実するのか、すべては最終話を楽しみに待ちたいと思う。
政治への不信は、昨今のドラマのそこかしこに見え隠れしている。『プライベートバンカー』(テレビ朝日系)では、主人公の庵野(唐沢寿明)によって大物政治家(こちらも堺正章が演じている)の裏金疑惑の真相が暴かれた。『法廷のドラゴン』(テレビ東京系)の最終回では、政治家の裏金について内部告発した人物が報復に遭って瀕死の重傷を負っている。『相棒 Season23』(テレビ朝日系)の最終回前後編では、都の税金を100億円以上も不可解な形で流出させていたタレント出身の東京都知事(片桐仁)が登場した。
政治家の不正はドラマや映画のテーマになりやすく、『日本一の最低男』のイメージソースの一つと推測される、政治の腐敗をテーマにした映画『スミス都へ行く』は1939年に制作された作品だ。いつの時代も政治不信はあるということだが、複数のドラマが政治不信を扱う今クールはそれがさらに高まっているように感じる。