寛一郎、『べらぼう』で際立つ“品格”と“存在感” 富本豊志太夫役で確かな実力を示す

新たなキャラクターが続々と登場するNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。この「大河ドラマ」という大舞台にまたひとり、若き才能がその名を刻んでいる。俳優の寛一郎だ。これまでにいくつもの話題作に出演し、すでに代表作と呼べるものも持っている彼だが、ここでより多くの人々に再発見されているようである。

本作は、吉原の貧しい庶民の子に生まれた蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)が、“江戸の出版王”に成り上がっていくさまを描き出すもの。彼は“本”というメディアを利用し、吉原の地を盛り上げようと奮闘しているところだ。これから本格的に波乱万丈な人生を歩んでいくことになる。そんな中、当時流行していた富本節を正本にしようと、蔦重が接触を試みるのが、寛一郎が演じる富本節の富本午之助。二代目・富本豊志太夫となる人物である。
第11回「富本、仁義の馬面」で華々しく初登場を果たした豊志太夫の別名は“馬面太夫”。江戸浄瑠璃の歌い手で、かつてその美声で江戸中を魅了した存在だ。番組公式サイトに記載されている情報によると、第12回「俄(にわか)なる『明月余情』」より“富本豊前太夫”に名前が変わるらしい。江戸の時代に実在した人物であり、しかも歌い手。演じる寛一郎にはそれ相応のプレッシャーがあったのではないだろうか。

出演に際して寛一郎は「歌舞伎が江戸時代の大衆娯楽として発展した中で僕が演じた午之助は太夫というスター的ポジションでした。(中略)扮装含め、歌稽古など先生方に教鞭をとってもらい大変貴重な時間を過ごしながら役を作っていけました。実際にやってみると歌と語りの間と言っていいほど太夫の歌は難しく、付焼刃で出来ることではないですが、精一杯やらせてもらいました」とコメントしている。(※)
実際にフタを開けてみると、そこにはたしかに“美声”を持った豊志太夫がいた。「太夫」というだけあって、特別な品格を持ち合わせていることがうかがえる。彼のその才能を前にした蔦重の表情が興奮の色に変わった瞬間、私たち視聴者の誰もが同じように、興奮したのではないだろうか。“寛一郎=富本豊志太夫”の登場が、この『べらぼう』の世界をより華やかなものにしてみせたのだ。これからこの存在がどれくらい蔦重の人生に、『べらぼう』の世界に、影響を及ぼすのだろうか。主演の横浜も寛一郎もともに同じ28歳だ。20代の若き才能が「大河ドラマ」という大舞台でどんな化学反応を起こすのか。劇中の蔦重と豊志太夫の関係に重ねずにはいられない。