窪田正孝が“振り回され力”を発揮する 『マイ・ブロークン・マリコ』で体現した説得力

窪田正孝が“振り回され力”を発揮する

 優れた役者にはそれぞれに得意なゾーンというものがあるが、窪田正孝においては「振り回される」があるのではないか。時に他者に、あるいは社会に、さらには運命に――振り回され、翻弄される人々に命を宿してきた。

 『Nのために』(TBS系)では、ある事件を境に運命を狂わされる純朴な青年に扮し、『64ーロクヨンー』では担当した事件の責任を感じて引きこもりになる研究員、『るろうに剣心』では結婚を前に斬られる武士、『THE LAST COP/ラストコップ』(日本テレビ×Hulu)は昏睡状態から目覚めた型破りな刑事に振り回される若手刑事、『犬猿』では厄介者の兄に苦労させられる弟を演じた。『ケータイ捜査官7』(テレビ東京系)から長年組んでいる三池崇史監督の『初恋』ではヤクザ・チャイニーズマフィア・警察の争いに巻き込まれるボクサー、『決戦は日曜日』では傍若無人な議員立候補者にアゴで使われる私設秘書、秘密を抱えたまま世を去った男役に挑んだ『ある男』(11月18日公開)と、直近の作品まで一貫している。

 考えてみれば『HiGH&LOW』シリーズのスモーキーも病魔を抱えながら戦いに臨む役どころであり、突如運命が激変する『東京喰種トーキョーグール』の主人公・カネキも、恐るべき“神器”に触れてしまった『DEATH NOTE』の夜神月も、『闇金ウシジマくん Part2』のホストも、『アンナチュラル』(TBS系)や『最高の離婚』(フジテレビ系)にもその要素はある。一見「振り回される」側ではないような『カノジョは嘘を愛しすぎてる』のバンドマンも、佐藤健演じる主人公が抜けた穴を埋めるために抜てきされた、というポジションだった。これらはあくまで一例で、細かく見ていけばキリがない。「振り回す」のではなく「振り回される」ことで光る役どころを任せたくなる“人間味”が、窪田には備わっているのだろう。

 その観点で考えたとき、外せない作品がいまから10年前の映画『ふがいない僕は空を見た』だ。本作で窪田が演じたのは、母には捨てられたも同然で認知症の祖母の世話を強いられ、毎日バイトに明け暮れてなんとか糊口をしのぐ苦学生。自らが招いたわけではない不幸をじっと耐え忍ぶ姿はなんとも悲劇的で、バイト先のコンビニで空腹でふらつきながら商品の弁当を見つめる姿は実に痛々しい。だからといって同級生から施しを受けることはせず、自尊心を大切に守り抜く人間臭い人物であり、窪田正孝=演技派俳優の道を作った1本といえるのではないか。

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