『オズの魔法使い』はどう映画化されてきたか? 『ウィキッド ふたりの魔女』との繋がり

ブロードウェイで2003年に初演され、以来世界中で20年以上愛されている大人気ミュージカル『ウィキッド』。名作児童文学『オズの魔法使い』の前日譚として、知られざる「西の悪い魔女」の誕生と「善い魔女」との友情を描いたこのミュージカルの第一幕が、『ウィキッド ふたりの魔女』として映画化された。アメリカでは2024年11月22日に公開され大ヒットとなっていた本作が、ようやく日本でも2025年3月7日に公開され、遅ればせながら大旋風を巻き起こしている。主演を務めるシンシア・エリヴォとアリアナ・グランデの抜群の歌唱もさることながら、魅力的なキャラクターや物語に人々は魅了されているのだ。

ミュージカルおよび映画『ウィキッド ふたりの魔女』の元ネタとなった児童書『オズの魔法使い』は、ライマン・フランク・ボームによって生み出され、1900年の初版以降、何度も再版された誰もが知る名作だ。この記事では、これまでの「オズ」関連映画とともに『ウィキッド』で引用された原典の要素を紹介していこう。
変化球が多い「オズ」関連映画
『オズの魔法使い』を原作とした映画においてもっとも有名でほぼ唯一の作品は、ジュディ・ガーランド主演の『オズの魔法使』(1939年)だろう。“ほぼ唯一”と言ったのは、原作のストーリーを大きくアレンジすることなく描いた映画作品は同作だけだからだ。ほかの作品は変化球とも言えるものが多く、これは『オズの魔法使』が「オズ」映画の原点にして頂点だからだろう。
1978年に公開された『ウィズ』は、オール黒人キャストで人気を博したブロードウェイミュージカル『ザ・ウィズ』を映画化したもので、ドロシーは24歳のハーレム出身の教師に変更され、エメラルド・シティはニューヨーク風に描かれるなど、かなり現代的なアレンジが加えられている。ダイアナ・ロスがドロシー役を務め、カカシ役でマイケル・ジャクソンが出演、音楽はクインシー・ジョーンズと、ミュージカル映画としてカルト的な人気を獲得している作品だ。
1980年のウォルター・マーチ監督による『オズ』は、原作シリーズの2作目『オズの虹の国』(1904年初版)と3作目『オズのオズマ姫』(1907年初版)をアレンジした作品で、1度カンザスに帰ったドロシーが再びオズの国を訪れ、冒険をくり広げる。これは『オズの魔法使い』の後日談という扱いになるだろう。
2013年に公開されたサム・ライミ監督の『オズ はじまりの戦い』は『ウィキッド』よりもさらに前の前日譚で、サーカスの手品師であるオスカー・ディグス(ジェームズ・フランコ)が気球でオズの国に飛ばされ、人々の勘違いから「オズの大魔法使い」に“なってしまう”までを描いている。
どれも『オズの魔法使い』の世界観を前提とした興味深い作品なので、『ウィキッド』熱が冷めないという人には、さらなる「オズの国」への冒険としておすすめしたい。
映画『ウィキッド』で引用された『オズの魔法使い』の要素

ミュージカルおよび映画『ウィキッド ふたりの魔女』は、ボームの『オズの魔法使い』と、同作をもとにしたグレゴリー・マグワイアの小説『ウィキッド 誰も知らない、もう一つのオズの物語』(1995年初版)を原作としている。マグワイアの小説はもちろん、映画『ウィキッド ふたりの魔女』でもそれらを見ることができる。
印象深いのは、あるシーンで大映しにされていたネッサローズ(マリッサ・ボーディ)の「銀の靴」だ。これは原典では東の悪い魔女のものとして登場している。彼女が竜巻で飛んできたドロシーの家の下敷きになって圧死したことから、ドロシーは魔女を倒したお礼としてこの「銀の靴」を与えられ、それを履いてエメラルド・シティに旅立つ。映画『オズの魔法使』では、これはルビーの靴に変更されたため、そのイメージが強い人も多いだろうが、原典では「銀の靴」だった。『ウィキッド ふたりの魔女』では、グリンダ(アリアナ・グランデ)が「ポピュラー」を歌うシーンで赤い靴を手にしており、これがルビーの靴を思わせる。

そのほか「ケシの花」や「黄色いレンガの道」も、その後のドロシーの冒険へのつながりとして効果的に登場している。またオズの魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)については、彼が魔法の書グリマリーを読んだとされる劇中劇で、「オマハ」とくり返すくだりがある。原典では気球でオズの国に飛ばされてきた男の出身地はネブラスカ州オマハとされている。
さて、ここで少し続編にも関連しそうな原典からの引用を紹介しよう。エルファバ(シンシア・エリヴォ)とネッサローズの父は、マンチキン国の総督を務めていた。原典ではマンチキン国はオズの国の東にあるとされている。『オズの魔法使い』で、ドロシーの家が落ちたのはまさにこの土地だった。また、オズの国の西にあるのはウィンキー国で、『ウィキッド』に登場するフィエロ(ジョナサン・ベイリー)はその国の王子となっている。

『オズの魔法使い』には東西南北4人の魔女が登場するが、そのなかで唯一名前が与えられているのは、「南の善い魔女」グリンダだけだ。映画『オズの魔法使』ではグリンダは「北の善い魔女」となっており、『ウィキッド』では、グリンダがどこの魔女なのかは言及されていない。