窪田正孝が“振り回され力”を発揮する 『マイ・ブロークン・マリコ』で体現した説得力

窪田正孝が“振り回され力”を発揮する

 そして――。本作と『ロマンス』で組んだタナダユキ監督との最新タッグ作『マイ・ブロークン・マリコ』(9月30日公開)でも、窪田正孝は見事な“振り回され力”を発揮している。平庫ワカによる同名人気漫画を実写映画化した本作は、親友のマリコ(奈緒)を亡くしたブラック企業社員・シイノ(永野芽郁)が、彼女の遺骨を毒親から奪い取り、弔いの旅に出るという物語。窪田は、シイノが道中で出会う男・マキオを演じている。

 ひったくりにあったシイノを助け、「名乗るほどの者じゃございません」と去っていくマキオ。長髪に髭面、ニット帽やマフラーで身を包み、世捨て人のような風貌の彼は、その後も何度かシイノと再会。彼女に振り回されながら、否定することも邪魔することもなく、ただそっと寄り添い、視線を前に促してほんの一歩導こうとする。「自死」を描いたこの作品の中で、重要な一部分を担ったキャラクターだ。

 描き方を間違えれば便利な“お助けキャラ”になってしまいかねないマキオだが、役者人生の多くを「振り回され」てきた窪田にかかれば、佇まいだけでその人物の(作中では描かれない)人生、その歩みを察するほどの説得力が漂ってくる。しかも、演出するのは10年前の時点で窪田の特性を引き出しているタナダ監督。円熟味を増した両者のコラボレーションは、非常に分厚い(『ふがいない僕は空を見た』を観ている人間からすると、こみ上げてくる想いもあることだろう)。穏やかに淡々と、だがどこか悲哀を帯びた窪田の朴訥とした声はスッと耳から心に沁み入り、人間ドラマとしての深みを増幅させてくれる。

 「振り回される」にも通じるが、「見守る」も窪田の得意とするところ。少し離れたところから見守りつつ、味方であろうとする控えめな優しさは『Nのために』や『予告犯』、ひいては『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)のポジショニングに重なる部分もあるのではないか。自身が多くに振り回され、人生のままならなさを知っているからこそ他者を優しく見守り、幸が訪れることを密かに祈る――。そんな人物が、ハマらないわけがない。

 言ってしまえば、『マイ・ブロークン・マリコ』のマキオは、窪田正孝の“領域”に完全にマッチし、タナダ作品であることから、彼の強みをフルに発揮できるポジションでもある。永野と奈緒の演技の入り込みもすさまじく、ふたりが濃く没入するほどに窪田の淡い芝居がコントラストを形成していくという位置関係も秀逸。寒風吹きすさぶ岬にそっと佇む東屋的な、休息の場を提供する窪田の静かで豊かな芝居に、救われる観客は多いのではないか。

 また余談だが、窪田正孝の近年の出演作を縦で並べてみたとき、作り手の“色”が濃く出ている作品の割合が増えつつある点も興味深い。『ファンシー』『初恋』『決戦は日曜日』とクセの強い作品が続き、妻の水川あさみが監督を務めた『MIRRORLIAR FILMS Season4』の一遍『おとこのことを』、『マイ・ブロークン・マリコ』を経たのちには『ある男』や齊藤工(斎藤工)が監督を務める『スイート・マイホーム』と魅力的な企画が並ぶ。新たなフェーズに入りつつある彼のフィルモグラフィを追いかけ、窪田正孝に感情を「振り回される」のも一興だ。

■公開情報
『マイ・ブロークン・マリコ』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中
出演:永野芽郁、奈緒、窪田正孝、尾美としのり、吉田羊
監督:タナダユキ
脚本:向井康介、タナダユキ
原作:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(BRIDGE COMICS/KADOKAWA刊)
音楽:加藤久貴
エンディングテーマ:「生きのばし」Theピーズ(P)2003King Record Co.,Ltd.
制作プロダクション:エキスプレス
制作協力:ツインズジャパン
配給:ハピネットファントム・スタジオ、KADOKAWA
製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ
製作:映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会
©︎2022映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/mariko
公式Twitter:@mariko_movie

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