『進撃の巨人』に隠された“水平移動”と“垂直移動”の対立 The Final Season Part2に寄せて

 『進撃の巨人』アニメ版についての寄稿依頼を受けて、真っ先に思い浮かんだのは「立体機動装置」のことだ。論集『進撃の巨人という神話』(blueprint)でライターのしげるは、巨人を打ち負かすという不可能をギリギリのところで達成できそうと感じさせる、よく練られたハッタリとしてこれを評価しているが、状況が時間軸に沿ってシームレスに動き続けるアニメにおいては「燃料はどこで補給しているのか?」という疑問が湧いてしまうのをはじめ、原作ほどハッタリとしての機能がうまく働いていないようにも思える。

進撃の巨人

  それでもこの歴史的傑作漫画がアニメというメディアに変換されることの意味が、この装置の存在に凝縮されていることは間違いない。単に華やかなアクションシーンを提供してくれているというだけでなく、『進撃の巨人』という物語そのものが「アニメ化」のダイナミズムを欲していたことが、この装置に注目することで見えてくるのだ。

 『進撃の巨人』はそのタイトルが示す通り、ある一点から見据える方向へと「進撃」する「水平移動」の主題を描いている。しかしこのことは、常に打ち倒すべき「壁」や「敵」を欲するということと表裏一体でもある。「マーレ編」に突入する直前、海に辿り着いたエレンの言葉、「…なぁ? 向こうにいる敵…全部殺せば…オレ達 自由になれるのか?」はそれを象徴するものと言えるだろう。ハンジが調査兵団最後の団長としてエレンの虐殺を否定するのは、人倫や道徳からではなく、「進撃」し続けるという態度が調査兵団の理念である「調査」に根本のところで相反すると直観しているからだ。すべてをまっさらな地平に返せば、「調査」すべき未知はなくなってしまう。それは世界の限界……「壁」を自ら建設してしまうことと同義なのである。

 思えば、調査兵団のシンボルマークは「翼」であった。終わりなき報復の連鎖、「壁」を壊し続ける=「敵」の存在を欲する「水平移動」の主題に抗うものとして、飛翔という「垂直移動」の主題がはじめから示されていた。そして「立体機動装置」とは、まさに人間の飛翔を可能にする装置である。単に巨人という敵キャラクターを倒すための道具であるだけでなく、「進撃」という作品のタイトルに冠された、しかし最終的に否定されるべき運動性を打ち消す象徴でもあるのだ。

 さらに「水平移動」と「垂直移動」の対立を「平面」と「立体」の対立と言い換えることで、漫画からアニメへというメディアミックスの議論も射程に入れることができる。漫画は「めくる」という水平方向の動作によって進行するメディアである以上、「垂直移動」の主題の描かれ方にも自ずと限界があった。一方のアニメ版は3DCGによる仮想的な空間を獲得することで、より受け手に感じ取りやすい形でこの主題を表現できるようになっているのである。

 『The Final Season Part2』の山場として「始祖ユミルとの接触」(第78~80話)と「飛行艇奪取作戦」(第85~86話)が挙げられる。前者はジークがエレンの頭部に触れる瞬間、時間が停止しバーチャルなカメラが空間を回り込む演出に、後者は超絶技巧の戦闘作画を際立たせる背景映像のカメラワークに、3DCGが効果的に用いられている。

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