小田慶子の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 描かれる“エントリーシート世代”の生き方

小田慶子の「2021年ベストドラマ10」

6.『連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル』

 今年のベストサスペンス。主人公の佐良(松岡昌宏)は捜査一課から「警察の警察」と呼ばれる人事一課監察係に異動し、匿名の密告を受けて、殉職した後輩の婚約者だった女性警察官(泉里香)を内偵することに。その疑いは大きくなり、疑惑にジョインする警察関係者もどんどん増え、佐良は誰も信じられない状態になる。その孤独感を体現した松岡をはじめ、気配を自在に消せる佐良の相棒を演じた池田鉄洋と2人の上司を演じた仲村トオル、佐良の刑事時代の先輩役の三浦誠己、アキラ100%の演技が最高。これまでは女子力を強調した役柄が多かった泉の新境地も楽しめた。演出は『コールドケース』(WOWOW)や『殺人分析班』(WOWOW)の内片輝。ソリッドな映像とストーリーテリングの緻密さでアメリカや韓国のサスペンスに比べても遜色のない作品に仕上げている。すごい人なのでは?と遅ればせながら気づいたので、監督と組んだことのある演者に聞いてみたら「めちゃくちゃ才能ある人だから、ドラマの制作者はぜったい押さえておいたほうがいい」という答えが。やっぱりそうですか。

7.『生きるとか死ぬとか父親とか』

 女性の現在を描いた作品として本作か、今年絶好調だった橋部敦子脚本による『半径5メートル』(NHK総合)を入れたいと悩んだ。本作はジェーン・スーが実体験を書いたエッセイを山戸結希がメイン監督・シリーズ構成を務めフィクションとして再構築したもの。40代の娘(吉田羊)が70代の父(國村隼)との関係を見つめ直すという女性版『俺の家の話』で、昭和の高度経済成長期を生きてきた父が家庭を軽視してきたということも共通している。娘は母親以外の女性がいた父を心底から許すことができない。これはしんどい。そんな昭和の後始末が平成を経て令和の時代に描かれた。主人公と同世代なので、親世代の資産によって生かされてきたロスジェネがいよいよ親を支える側に回らなければならないという危機感もひしひしと感じ、ドラマオリジナル要素として描かれた元カレの挫折感なども胸にグサリと刺さった。

8.『顔だけ先生』

 熱血教師の金八先生が「人という字は、人と人とが支えあい立っている」と説いてから40年、続編が放送された『ドラゴン桜』(TBS系)のように、いまだに学園ドラマは教師が生徒を導くというフォーマットが有効。むしろ、東大合格や中学受験での成功というより画一化された価値観が提示されるようになっている。本作では、金八的な教師と生徒のやり取りを「それって偽善だよね」と言ってしまうようなイケメン非正規雇用教師・遠藤(神尾楓珠)が主人公に。彼は「いいじゃないですか。何がいけないんですか」と生徒の多様性を認めまくり、かと言って深入りはしない。金八の武田鉄矢も訂正したように、人という字の起源は“ひとりで立っている人間”を横から見た象形文字なのだ。母子家庭で育った男子生徒が母を亡くして絶望し、クラスメイトの同情を拒んで中退してしまう顛末を描いた第3話は傑作。演劇的な台本を自然体で演じる神尾と、学年主任という中間管理職の悲哀をコミカルに演じた貫地谷しほりがよかった。

9.『WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-』

WOWOWオリジナルドラマ『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(c)香川まさひと・月島冬二/小学館(c)2021「WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-」製作委員会

 こちらもドラマWで才能ある監督が撮った秀作。若くして保護司となった佳代(有村架純)が保護対象となる前科者の社会復帰を支えようとし、毎回のように対応に失敗しつつも、経験値を積んでいく。佳代に任されるのは、母親にも疎まれるヤンキー娘(石橋静河)、実の兄を殺してしまった男(大東駿介の演技がすごい)、男にだまされて薬物中毒にされた女性(有村とは『コントが始まる』でも組んだ古川琴音)など。描かれる内容はシビアだが、30分という時間で必要な要素をスムーズに見せ、重くなりすぎず飽きさせない。『あゝ、荒野』の岸善幸監督がチーフ演出で、ドラマの続きに当たる映画(1月公開)も傑作だ。今年は西村美和監督の映画『すばらしき世界』もあり、BSプレミアムの『生きて、ふたたび 保護司・深谷善輔』もあり、世間の目が厳しい中、過去に罪を犯した人間はやり直せるのかという問いが改めて示された。ネットでの個人バッシングに対するアンチテーゼなのかも。

10.『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』

 今のドラマはこう作れば見てもらえるというお手本のような作品。まずタイトルには主人公の職業など属性を明記(他の例『ドクターX~外科医・大門未知子~』テレビ朝日系)。コメディの上手いキャストとコントを書ける脚本家をそろえ、序盤で楽しい作品ですよとアピール。視聴者を笑わせてキャラクターの人気を確立しつつ、本当に描きたいテーマを打ち出していく。本作で先輩警官の藤(戸田恵梨香)と新人の川合(永野芽郁)が信頼を築く様を描いた根本ノンジの脚本は笑いの中にもリアリティがあった。物語の鍵となるのはセンセーショナルな殺人などではなく、藤の同期の女性がひき逃げされたというリアルな未解決事件。警察学校ホラーだった『教場』(フジテレビ系)とは真逆で、藤は川合が任務を拒否しても理解を示すという威圧感のない関係がよかった。天才的なコメディセンスを見せた戸田と永野、楽しそうにおバカな刑事を演じた三浦翔平と山田裕貴、鉄板のムロツヨシと、演者のバランス感覚が抜群。

■リリース・配信情報
『俺の家の話』
Blu-ray&DVD発売中
Paraviにて配信中
出演:長瀬智也、戸田恵梨香、永山絢斗、江口のりこ、井之脇海、道枝駿佑(なにわ男子/関西ジャニーズJr.)、羽村仁成(ジャニーズJr.)、荒川良々、三宅弘城、平岩紙、秋山竜次、桐谷健太、西田敏行
脚本:宮藤官九郎
音楽:河野伸
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未
演出:金子文紀、山室大輔、福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
発売元:TBS
発売協力:TBSグロウディア
販売元:TCエンタテインメント
(c)TBSスパークル/TBS

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