小田慶子の「2021年 年間ベストドラマTOP10」 描かれる“エントリーシート世代”の生き方

小田慶子の「2021年ベストドラマ10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第14回の選者は、ライター/編集者の小田慶子。(編集部)

1.『俺の家の話』(TBS系)
2.『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)
3.『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)
4.『青天を衝け』(NHK総合)
5.『おかえりモネ』(NHK総合)
6.『連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル』(WOWOW)
7.『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京系)
8.『顔だけ先生』(東海テレビ・フジテレビ系)
9.『WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW)
10.『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(日本テレビ系)

 年末になり振り返ってみれば、2021年も怒涛すぎた。東京オリンピック2020もデルタ株の感染拡大も今年のことだって本当ですか? 昨年に引き続き、テレビドラマの制作現場でも感染対策は必須となり、それでもキャストやスタッフの感染によって撮影が中断することもあったが、それも「仕方ないこと」として受け留める冷静さができていたように思う。ライターとして取材もたくさんさせてもらった。そして、今年も連続ドラマの中から10本を選ばせてもらった。ドラマとしての完成度が高いだけでなく、新しいテーマや題材に挑戦している、または現代に問いを投げている作品を選んだ。6位以下は差がなく、5作品とも6位と思っていただければ。

1.『俺の家の話』

 年始に放送された本作を超えるものはなかった。脚本の宮藤官九郎と長瀬智也と西田敏行と愉快な仲間たちによる人情噺の集大成。長瀬がこれで引退してしまうのではという切なさもあいまって、今年最も感情を揺さぶられた。長瀬演じる寿一は、能楽師の父(西田敏行)が余命宣告されたタイミングで25年ぶりに実家に戻り、その介護をしながら妹や弟たちの間を引っ掻き回して父に対する複雑な思いを吐き出させ、家族のわだかまりをなくしていく。介護という要素がクドカン作品としては新しい挑戦だったが、日常の介護のたいへんさというより、尊敬し恐れてもいた親の老いに直面する子のしんどさというメンタル面を描いていた。寿一はプロレスラーであり、プロレスも能楽も男の世界だが、寿一の元妻(平岩紙)や妹(江口のりこ)、父親付きの介護士(戸田恵梨香)がバシッと言う女性の本音が小気味よく、女にも男にも幻想を抱かせないドライさがいい。ただ、家族愛には希望を見出しているわけで、そこがまた、コロナ禍でみんなが家にこもり、家族との関係を見つめ直さざるをえない現状にフィットしたのでは。

2.『大豆田とわ子と三人の元夫』

 脚本家・坂元裕二の連ドラ復帰作。エスプリの効いたセリフからカメラ目線のオープニング、映像、音楽、EDテーマ曲に至るまで何もかもがおしゃれ。出だしから世界観が確立されていて、リピート視聴に耐えうる密度は今年ナンバー1。3度の離婚経験がある建築会社社長のとわ子(松たか子)は、最初の夫であるレストラン経営者(松田龍平)、2番目の夫であるカメラマン(角田晃広)、3番目の夫で年下の弁護士(岡田将生)から、うっとおしいほどアプローチされる。とわ子は少女の頃から「1人で生きていけるけど、誰かに大事にされたい」と願ってきたが、元夫の誰かと復縁する気にはなれず、新しく出会う男たちとも上手くいかない。『俺の家の話』にも通じるが、突然自分のそばから去っていってしまう人もいる。そんな人生のほろ苦さを要所要所で入る伊藤沙莉のナレーションが救っていた。他の坂元作品のようにヒロインが過酷な運命を背負っていないので、共感しやすかったし、最終話で描かれた同性愛のエピソードもさすが。TBSからカンテレに移籍してこのドラマを作った佐野亜裕美P(『カルテット』)と坂元と松たか子は、純文学のようなドラマを見せてくれる稀有な座組だ。

3.『今ここにある危機とぼくの好感度について』

 最高学府を舞台にアカデミズムの腐敗ぶりを描いたシニカルなコメディ。大学の理事会に集うのは学長役の松重豊を始め岩松了、國村隼とそうそうたる面々で、その下で渡辺いっけいや池田成志らが暗躍する。演劇ファンにとっては「ここは天国ですか」状態だった。迷うことなく権力と権威にすり寄る隠蔽体質の大学運営は絶望的だが、主人公が「何も言えねぇ」広報マン・神崎(松坂桃李)なので、笑いながら観られるのもよかった。放送はコロナ禍の最中に実施された東京オリンピックの直前、くしくも終盤では「巨額の予算をかけた大会を行うために、少数の命と健康が犠牲になってしまう」という現実をあぶり出した。鈴木杏の演じるポスドクが内部告発をし、彼女の投げた一石が結果的に大学の体制を変える。そこは人間の良心は信じられるという希望を描いたのか。渡辺あやがエンターテインメント性を重視し「見やすく」、しかしメッセージ性は損なわずに書いた脚本に拍手。

4.『青天を衝け』

 幕末から明治が舞台で実業家の渋沢栄一(吉沢亮)が主人公という視聴率マーケティング的にはかなり不利な題材で、ここまで面白く見せてくれるとは。幼少期から始め、栄一の本来の性格や育ってきた環境、父母から受けた教えを描いたことで共感を呼び、90余年の生涯を閉じるまで視聴者を惹きつけた。大森美香の書く脚本の構成力がすばらしく、登場人物が生き生きとしていた。だからこそ、栄一もかぶれたという「尊皇攘夷」という思想が幕末の血なまぐさい狂乱を呼び、明治維新後も人々の心でくすぶり、対外戦争を引き起してしまったという歴史観に説得力が感じられた。全集中して大役に挑んだ吉沢亮をはじめ、歴史上の人物を演じるキャストがイケメンすぎて、幕末ものの乙女ゲーのようにも見えたけれど、そういった俳優のきらめきと演技の質が両立していた。徳川慶喜役に草なぎ剛を配したのも慧眼で、『あまちゃん』などでも辣腕を奮ったNHKの菓子浩制作統括はキャスティングの天才では。

5.『おかえりモネ』

 今年のドラマは人生の全シーンが就活のようになった“エントリーシート世代”(勝手に命名)の生き方を描いていた。芸人たちの青春の終わりを描いた『コントが始まる』(日本テレビ系)やこの朝ドラがそれに当たり、主人公たちは希望の職種にエントリーし真っ当に努力するものの、チート要素はなく、夢をマネタイズできない。百音(清原果耶)は利他の精神に富んだ気象予報士というSDGsなヒロインで、東京でお天気キャスターとして有名になった後、宮城県の離島である故郷に帰り、地域に貢献する仕事をする。東日本大震災から10年経った今年、朝ドラとして初めて震災が人々の心に残した傷に向き合った作品であり、愛する妻を津波にさらわれた男(浅野忠信)という遺族のみならず、そのとき家族や教師として守るべき人を守れなかったという罪悪感を抱える広義の被災者をも描いていた。百音と医師の菅波(坂口健太郎)が自分たちの交際よりも、あくまで「今やるべきこと」を優先させる姿にもエントリーシート世代のリアリティがあった。物語は最後にコロナ禍の現在までたどりつき、現実に起きていることから目を逸らさないという脚本・安達奈緒子の強い意志を感じた。

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