日本のフル3DCGアニメはなぜ酷評されるのか 現在の課題と今後の行方を占う

フル3DCGアニメ、課題と今後の行方

 日本はアニメ大国だ。街を見渡せば、至る所にアニメのキャラクターが宣伝を担う商品のポスターやラップ広告があるし、1クールのアニメ放送は、全てをチェックするならば睡眠を犠牲にしなければならないほど多い。内閣府はクールジャパン戦略で、外国人がクールと捉える日本の魅力のひとつとして「アニメ」を推進させている。国家お墨付きだ。

 だが、すべての日本のアニメが成功しているのかと言うと、必ずしもそうとは言えない。外国人から高い評価を受けている日本のアニメは『AKIRA』や『攻殻機動隊』、『新世紀エヴァンゲリオン』といった80年〜90年代に発表されたものばかりだし、実際に海外のアニメファンに話を聞くと、昔の2Dアニメは他の追従を許さないほどのクオリティだったが、今の日本のアニメはかつてほど人を圧倒させる力はないという。

 では、今の日本のアニメとはどういったものなのだろうか。ロボットや背景、プロップをCGで作り、キャラクターを2Dで描くハイブリッド方式のアニメは今でも高い評価を受けているが、フル3DCGアニメは酷評されがちだ。今年も『アーヤと魔女』や、『リョーマ!新生劇場版テニスの王子様 』、『攻殻機動隊 SAC_2045』といった作品が劇場公開/配信され、アニメ業界全体としてはCG作品への期待や追求を止める様子はない。では、昨今の日本の3DCGアニメの取り組みはどういったものなのだろうか。課題点にも触れつつ、日本のフル3DCGアニメーションのあり方について考えていきたい。

『劇場版 アーヤと魔女』予告【8月27日(金)公開】

日本のフル3DCGアニメと課題

 フル3DCGアニメと言っても、『STAND BY ME ドラえもん』シリーズのようなモデルはカートゥーンでリアルレンダリングのもの、『アシュラ』のように水彩画のように見えるもの、『聖闘士星矢』のようにボリュームレンダリングのもの、『劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- DC』のように3DCGをセル画のアニメのように見せる輪郭線付きのセルルックといった具合に見え方や作り方は異なる。

[STAND BY ME ドラえもん]予告篇1

 ただ、どういったテイストであっても共通して言われがちなのが表情の乏しさだ。日本の2Dアニメや海外の3DCGアニメを見慣れていると、どうしても表情がのっぺりと見える。口の動きにしてもそうだが、キャラクターを正面以外から捉えた時も顔の見え方にも違和感を感じてしまう。体の動きはCGアニメが現場で使われるようになったばかりの頃と比較するとよくなってきているが、どうして表情ばかりが取り残されがちなのだろうか。

スケジュールと予算の問題

 日本のアニメ制作現場が今も昔も予算とスケジュールに悩まされてることはよく知られるところだ。ワークフローはひと昔前と比べればだいぶ整ってはきているものの、予算がなければ十分な人足を揃えることができず、余裕を持ったスケジュールがきられていなければ、じっくりと開発をすることができずに突貫工事になってしまう。フェイシャルに特化したことではなく、全体のクオリティにも多大なる影響を及ぼすが、フェイシャルに的を絞って書くのなら、現場で起こっている問題はこうだ。

 アニメーションを作る場合、キャラクターのデザインに加えて、そのキャラクターがどんな表情を作るのかを描いた表情集というものが用意される。2Dならばどんなにデフォルメされた表情でもかき分けることが可能だが、フル3DCGアニメーションの場合、表情の変化を想定して顔のモデリングのポリゴンの分割をあらかじめ行っておくだけでなく、口や目や眉、鼻といった各要素を変形させるモーフターゲットのバリエーションのストックをできるだけ多く用意しておかなければならない。

 表情を豊かにするならばこの工程が重要になってくるが、作業時間と作業できる人間が少なければ必然的に作業は簡略化されてしまう。日本の制作現場は常にスケジュールとの戦いのため、口パクなら母音、大口、小口、表情は喜怒哀楽とプラスαが用意され、あとはカットで必要とされているものを特別に作るといった対応策が取られており、ひとつの作り込んだモデルを全方向に使い回すというのが難しい状態だ。

日本と海外のスタジオでみた3DCG作品へのアプローチの違い

 かれこれ10年以上も前の話になるが、筆者は日本と海外の両方のスタジオで3DCGの制作進行を勤めたことがある。その際に気づいたのは、日本のスタジオはまだまだ2Dの力が強く、3DCG映画やアニメを作る場合であっても予算とスケジュールが2Dアニメのそれと同じになってしまうということだった。また、コンピューターとソフトウェアを使うという性質上、簡単に作れてしまうと誤解されていたり、反対に、時間と費用がかかる割にできるものが2Dより表現力の幅が狭いと考えられていた。

 これは10年以上前だからというわけではない。2018年に公開された短編アニメーション『毛虫のボロ』は、制作当初、宮崎駿監督の初3Dアニメーション作品になる予定だったが、表現の点で満足がいかず、最終的に3DCGパートを大幅に削り、手描きが加えられている。

 では、海外の3DCGスタジオではどんなアプローチが取られているのだろうか。大手のスタジオの場合、作品ごとのプロジェクト契約となっている。つまり、その作品のために予算とスケジュールが組まれ、その作品のためにスタッフを世界各国から呼び寄せる。プロジェクトがフル3DCG作品なら、基本的にそこからブレることはなく、そのエキスパートたちが集結するのだ。そして、3DCG作品にとってもっとも重要とされるプリプロダクションの期間を十分にとり、複雑に細分化されるワークフローで行ったり来たりといった工程が発生しないように、可能な限りの設定を決め込む。

 日本のプロダクションは、この脚本、設定、絵コンテ、アニマティクスなどを作るプロプロダクションの期間が短く、モデリングやレイアウト、アニメーション工程であるプロダクションが始まっても設定が変更されて、アーティストに負荷がかかってしまっている場合が少なくないのが現状だ。

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