岩田剛典の演技の経験が集約 『名も無き世界のエンドロール』で表現された“人間の変化”

岩田剛典の演技の経験が集約 『名も無き世界のエンドロール』で表現された“人間の変化”

 岩田剛典が裏、新田真剣佑が表、2つの世界でのし上がるバディを描く映画『名も無き世界のエンドロール』が1月29日より公開される。

 行成薫による同名の小説(当初は『マチルダ』という名前であったが改題)を原作とした物語は、クリスマスイブの夜、サンタの恰好をしたキダ(岩田剛典)とマコト(新田真剣佑)が携帯で連絡を取り合いながら、ある計画を遂行しようとしている場面から始まり、ふたりの過去のエピソードに移行する。

 キダとマコトは幼なじみ。そこに転校生のヨッチ(山田杏奈)も加わり、同じ境遇の3人は大切な仲間となり、いつも一緒にいた。やがて3人は高校を卒業し、キダとマコトは自動車修理工場で働く。そこに、政治家令嬢で、芸能界で活躍するトップモデルのリサ(中村アン)が、真っ赤な高級車を直してほしいと依頼に来る。彼女に興味を持ち、食事に誘うも断られてしまうマコト。その日以降、マコトは忽然と姿を消してしまい、キダはその後も自動車修理工場で働いていたが、ほどなくしてその工場も倒産。裏社会の組織で交渉屋として働き、マコトを探し出す。

 主演を務める岩田は、映画の記者会見でキダという役について「ある出来事をきっかけに人間が丸ごと変わってしまうような役でした」と語っていた。確かにキダは、学生時代は心優しく、穏やかなのに、裏社会で働くようになってからは、笑顔も見せない。それ以降は、心を閉ざし、ますます影が濃くなっていく。

 岩田は、演技を始めた頃には、ドラマ『ディア・シスター』(フジテレビ系)のハチや映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の樹など、陽気で女性に対しても優しいイメージの役が多かった。しかし、『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)のような、一見おおらかで純粋なのに、どこか闇を抱えており、見ているものを裏切る役も増えていった。映画『去年の冬、きみと別れ』やドラマ『炎上弁護人』(NHK総合)、映画『AI崩壊』など、そのうち、ダークな雰囲気を持つイメージの方が強くなってきていたように思う。

 岩田は、本作でも、そんな人間の変化のグラデーションを全開に魅せ、陰と陽の二面性を見事に演じている。キダには、目的を持ったとき、無鉄砲に突き進んでしまいそうな説得力があり、誰かのためにという気持ちが強いことが、その真面目さに拍車をかけているのだろう。そうなってしまうと、高校時代や整備工場にいたときの明るさも、自然と身をひそめる。

 なぜ、キダが変わってしまったのか、その変化が物語の中での重要な要素となっている。キダが微笑んでいられたのは、彼の周りに、信頼できる、家族とも言っていいくらい大事なマコトとヨッチがいたからだ。マコトのしかけるイタズラにいつもひっかかってしまうのも、安心しているからだろう。

 一方、交渉屋としてのキダは、それまでとはまったく逆で、緊張感を持ち、神経をとぎすませているような面が見える。ただ、それでもマコトといるときには、かつてと同じ明るさもあり、そんな瞬間を見ると、キダの本質に変わりはないのだと、岩田の笑顔にほっとさせられるのだ。整備工場時代には、ツナギに頭にはタオル、いつもより髪が長く、ワイルドで、デビュー直後を思い出させる姿が今となっては新鮮で、裏社会に入ってからは、黒の服でいることが多く、暗い雰囲気のある見た目からも、ひとりの人間の変貌を感じさせる。

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