北米映画市場、今年最低の週末興収に 新作5本、ポテンシャルを発揮できず総崩れ?

北米映画市場、今年最低の週末興収に

 これは当然の話だが、ある週末に新作映画が5本公開されたからといって、その5本をすべて観る映画ファンは決して多くない。5本すべてに十分な上映回数を確保できる映画館もさほどない。5本すべてを適切に取り上げられるメディアやジャーナリストもいない。そうすると、どの映画も本来のポテンシャルを発揮できず、誰も望まなかったはずの結末がやってくる。

 3月14日~16日の北米映画市場は、新作映画5本が公開されたものの、週末の累計興行収入が5470万ドルで今年の最低記録を更新。春休みにもかかわらず、スーパーボウルに人々の興味が集中した2月7日~9日の5580万ドルを下回っている。第1位の『Mr.ノボカイン』は週末興収870万ドルだから、3日間で1000万ドルを超えた作品はひとつもない。現時点での年間興収は前年比マイナス5%で、前回予告した通りの前年割れとなった。

 もちろん、一喜一憂すべきタイミングではない。2023年に『オッペンハイマー』と『バービー』が、2024年に『モアナと伝説の海2』と『ウィキッド ふたりの魔女』が興行収入を一気に引き伸ばしたように、たった数本の大ヒットで業界の状況は一気に変わるのだ。昨年も一昨年も、一時は大変な窮地に追い込まれていたという事実を忘れてならない。

 ならば何が問題かといえば、「コスト管理」という名のもとに、あまり目立ったヒットとならなさそうな新作映画のプロモーションを露骨に抑え込むスタジオの戦略と、週ごとにスタンスをころころと変え、映画の興行的成否を曖昧な基準で判断しつづける一部の北米メディアだろう。

 コストとビジネス的な成否でいえば、第1位の『Mr.ノボカイン』は悪くない滑り出しだ。北米興収870万ドル、海外19市場では180万ドルで、現時点での世界興収は1050万ドル。当初は北米だけで1000万ドルのスタートを期待されていたものの、製作費1800万ドルという低コストぶりを踏まえれば、ソフトや配信での黒字化は堅いとみられる。

 『ザ・ボーイズ』のジャック・クエイド主演の本作は、生まれつきどんな痛みも感じないごく普通の銀行員・Mr.ノボカインが、銀行強盗に恋人を誘拐されたことをきっかけに、“無痛”の能力を武器に立ち上がるR指定アクションコメディ。Rotten Tomatoesでは批評家スコア82%・観客スコア88%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「B」評価を獲得した。

『Mr.ノボカイン』©2025 PARAMOUNT PICTURES.

 ただし、パラマウント・ピクチャーズが本作をうまくプロモーションできていたかには疑問が残る。『デッドプール』や『ジョン・ウィック』以降、R指定のアクションやコメディは未知のヒットを生み出せる数少ないジャンルであり、オリジナル脚本が予想外の結果を引き出すこともありうるからだ。日本公開は6月20日。

 「ソフトや配信で」という意味では、より問題なのが『ミッキー17』のワーナー・ブラザースである。今週は第2位で、週末興収は3日間で760万ドル、前週比マイナス60.5%という結果だが、これ自体はさほど驚くことではない(オリジナル脚本のSF映画がヒットしづらいこと、本作がクセのある作品であることは前回触れた通りだ)。

『ミッキー17』©2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 むしろ驚くべきは、ワーナーが本作の北米デジタル配信を3月25日に開始することだ。公開後の宣伝もそこそこに、劇場公開からわずか18日後の配信開始を当たり前にしてしまったら、映画ファンでない観客がどうして映画館に足を運ぶというのか。これは『ミッキー17』だけでなく、今後の映画業界や観客の行動にも影響を及ぼしうる危険な戦略だ。

 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024年)などでも北米ワーナーは拙速に事を運んでいたが、スタジオ部門のチャレンジ精神に比して、ビジネスとしては見切りをつけるのがあまりにも早い。コロナ禍では劇場公開と同日の配信リリースに踏み切り、クリストファー・ノーランとのタッグ解消に至ったことも記憶に新しいが、すべては事業統合以来の巨額な負債に苦しんでいるため。しかし、このやり方で状況は改善するのだろうか?

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