ロバート・ゼメキス製作総指揮ドラマ『マニフェスト 828便の謎』インタビュー
大根仁が語る、『マニフェスト 828便の謎』とロバート・ゼメキス 「人間ドラマがベースにある人」
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のロバート・ゼメキスが製作総指揮を担当するドラマ『マニフェスト 828便の謎 <シーズン1>』のDVDが好評発売中だ。
モンテゴ航空828便は突然の乱気流に飲まれながらも無事に飛行を終え、乗組員と乗客は安堵する。しかし、その数時間のフライト後、彼らが降り立った世界は離陸から5年半の月日が経過していた。友人や家族、同僚たちは、彼らの死を悼み、彼らが生きているという希望を捨て、未来に向かって新しい生活を始めていた。不可解な現象に直面した828便の乗客たちは、第2の人生を歩むこととなる。だが、現実に直面するにつれて謎も深まり、乗客の中には、人知の及ばない何か大きな存在から啓示を受けたと考える者もいた。一体空白の5年に何が起きたのか。超常現象か、それとも何者かの陰謀なのか……。
2018年に新作ドラマ全米視聴率No.1を記録した本作は、SF、タイムトラベル、ヒューマンドラマなど、ゼメキス監督の要素が満載のドラマに。今回リアルサウンド映画部では、ゼメキス監督の大ファンでもある映像ディレクターの大根仁にインタビュー。ゼメキス監督の手腕、『マニフェスト 828便の謎』の魅力をたっぷりと語ってもらった。(編集部)
「ゼメキスは、人間ドラマありきの監督」
――今年の6月に『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作(85年~90年)が連続放送され好評を博すなど、ここにきて『マニフェスト 828便の謎』製作総指揮を務めたロバート・ゼメキス監督の存在が、再び注目を集めているようです。
大根仁(以下、大根):『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズは、今観ても古く感じないし、世代に関係なく最高に面白いですからね(笑)。今回のテレビ放送の盛り上がりは、“コロナ自粛”も多分影響しているのかなと。割と家にいたり、家族と過ごす人たちも多かったじゃないですか。そういう状況で家族や複数で観るのに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズは、まさに最適だったんじゃないでしょうか。
――確かに。
大根:もちろん、CGなどの部分では、今の観点からすると、ちょっとオールドスクールな感じがあるけど、やっぱりベーシックな物語が、抜群に面白いんですよね。そのあたりは、ゼメキスの同世代であり、同じように80年代から次々と新しい映像表現を切り開いてきたジェームズ・キャメロン監督と、ちょっと違うところだと思うんです。
――なるほど。52年生まれのゼメキスと、54年生まれのキャメロンは、ほとんど同世代なんですね。
大根:そうなんです。ジョージ・ルーカスとかスティーヴン・スピルバーグ以降の世代というか。80年代中盤以降、新しい映像技術とともに、革新的な映画をどんどん作って、映画そのものをアップデートしていったのが、ゼメキスとキャメロンの2人だったと考えています。ただ、ゼメキスの場合は、技術以上に人間ドラマありきの監督。別にキャメロンの悪口を言うわけじゃないけど、『タイタニック』(1997年)とかを観ると、「とにかく、タイタニックを沈めたかったんだろうな」と思うじゃないですか(笑)。最新のCG技術を駆使して描き出すことを、まずはやりたかったんだなっていう。
――それこそ、キャメロンの『アバター』(2009年)とかも、技術先行型の映画という感じがしますよね。
大根:そうそう(笑)。もちろん、『ターミネーター』(1984年)や『エイリアン2』(1986年)とかは僕も大好きだし、すごく面白い映画だと思うんですけど、どこか技術ありきの監督というイメージがあるんです。それに対してゼメキスは、人間ドラマありきの監督。ゼメキスって言うと、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のようなタイムトラベルとか大掛かりなSF作品、あるいはCGなど映像技術の面で取り上げられることが多いけど、実はしっかり人間ドラマを描く監督でもあるんですよね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だって、“家族の再生物語”でもあるわけで。それこそ、過去に行って、父親と母親の関係を取り持とうとしたりする。そういう意味では、『コンタクト』(1997年)も近いですよね。未知の宇宙人に会いに行くという話でありながら、最終的には主人公と父親の関係性の話になっていく。全部が全部そうだとは言わないけど、やっぱりゼメキスは、“血縁”とか“家族”とか、そういった誰もが共有できるテーマがベースにある監督だと思うんですよね。あと、何を作っても偉そうな感じがしない。それは最初に観たのが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』というのも大きいと思います。
――そもそも最初に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を観たのは、高校生ぐらいのときですか?
大根:そうですね。当時から映画は結構たくさん観に行ってて。こういうノリは今もあると思いますけど、中高生の男子が友だち同士で観に行って、終わったあとに「最高! 超面白え!」ってマクドナルドで盛り上がる感じの映画ってあるじゃないですか(笑)。当時は、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)だったり『ターミネーター』だったり『ランボー/怒りの脱出』(1985年)だったり、そういう映画がいっぱいあったんですよね。で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、その最高峰だった。あと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はスクリーンに映るガジェットやファッションもカッコ良くて。デロリアンの汚しがかかった感じとか、マイケル・J・フォックスのスケーボーやスニーカーのディテールとか、50年代の若者のファッションやカルチャーとか音楽のチョイスとか、そういうゼメキスの「わかってる感」が、当時高校生の僕たちにとって“センスが良くてカッコ良い兄貴”って感じがしたんでしょうね。あの映画でカルバン・クラインを知った人、僕も含めて多いと思いますよ(笑)。
――確かに(笑)。ちなみに大根監督は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』以降、どのあたりからゼメキス監督の“作家性”みたいなものを意識するようになったのですか?
大根:もちろん、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の頃からゼメキスっていう名前は認識していましたけど、そこまで強い作家性がある監督とは捉えていなくて。どっちかというと職人的というか、エンターテイナーとしての映画監督というイメージでした。でも、『コンタクト』でその印象はガラッと変わった。『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)も大好きだし、あの映画でアカデミー賞をたくさん獲った(※作品賞、監督賞、主演男優賞をはじめ6部門を受賞した)けど、ゼメキスのフィルモグラフィーの中で僕が好きなのは、『コンタクト』と『フライト』(2012年)なんですよね。どちらも一つの作品の中に様々なジャンルが詰まっているところが特に好きなんです。いわゆる“作家性”や“描くべきテーマ”というよりも、とにかくいろんなジャンルのものを撮りたい人なんだろうなと思います。