王道なのに新鮮だった『涙の女王』、ジャンルを横断する傑作も 2024年韓国ドラマ座談会
手に汗握るサスペンス、シリアスな復讐系から王道ラブロマンス、カラッと笑えるコメディまで、2024年も盛り沢山だった韓国ドラマ。恒例となった今回の年末韓国ドラマ座談会では、数ある名作・快作の中でも、韓国ドラマのマニアたちがハマった作品を振り返りつつ、豊作が期待される2025年の新作についても大いに語り合った。
王道ストーリーを新鮮に魅せる作品が多かった1年に
ーー今年印象的だった作品にはどんなものがありますか?
にこ:今年はとにかく『涙の女王』だったんじゃないでしょうか! 『愛の不時着』の脚本家・パク・ジウンさんとキム・ヒウォン監督が手がけるということで、始まる前からものすごく注目度が高かったですよね。去年も座談会で言ってましたが、ふたを開けてみたら、やっぱりすごく良かったんですよね! パク・ジウンさんがキム・スヒョンさんをものすごく魅力的に描いていて、キム・スヒョンさんとキム・ジウォンさんの“ペクホンカップル”のケミが最高で世界中でシンドロームになっていました。ネタバレしてしまうと、結婚3年目の仮面夫婦が妻の余命宣告をきっかけにまた愛を取り戻していくストーリーで、財閥モノでもあり、パク・ソンフンさんの悪役キャラの造形もTHE 韓ドラの王道なんですよね。笑いあり涙ありの中、キム・スヒョンさんは特に涙の演技が素晴らしくて、毎回毎回一緒に泣いてしまうっていう感じでした。アジア中でブレイクした『星から来たあなた』でも、若い世代だけじゃなく、全世代に人気のあった『太陽を抱く月』でも、キム・スヒョンさんの「涙の演技」には定評がありますよね。相手役のキム・ジウォンさんは『私の解放日誌』だと、田舎の閉塞感の中で生きるちょっと暗さを持ったキャラクターでしたが、今回はガラリと変わって華やかな財閥の令嬢そのもので、傲慢さと可愛さを併せ持つキャラクターを好演。衣装も綺麗だしキラキラして豪華で、観ていて目が喜ぶ楽しい感じでした。クァク・ドンヨンさん、キム・ジョンナンさんらほかの出演者たちも実に素晴らしく、製作にかけてる予算も力が入っていました。
ーー終わり方には一部で賛否が分かれているようですね。
にこ:放送中ずっとみんなの期待を本当に超えてきていたからこそ、キム・スヒョンさん演じるペク・ヒョヌのビデオレターのシーンがなかったり、ファンが待ち望んでいたシーンが描かれずに終わったところで、好みが分かれたように思います。私は、個人的にキム・スヒョンさんがすごく好きなので大満足で観ていましたし、カメオにもテンションが上がりました。ほかにも、ピョン・ウソクさんが大ブレイクした、「推しがいる人たちの憧れ」が詰まった作品でもある『ソンジェ背負って走れ』は今年の作品として外せないですし、中国の人気作品のリメイク作で3組の家族たちを描いた『組み立て式家族~僕らの恋の在処~』がハートウォーミングでものすごく良かった。チェ・ウォニョンが演じる父親が聖人のようで、血の繋がらない親子の愛に毎話涙して観てました。子役のターンも良かったですし、ファン・イニョプ、ペ・ヒョンソン、チョン・チェヨンの関係性にもほっこりしたり、胸キュンしたりの良作でした。あとは、ウ・ドファンに夢中になった『Mr. プランクトン』ですね。それから『白雪姫に死を~BLACK OUT』と『私の夫と結婚して』がどっちかな? って迷うところです。
荒井南(以下、荒井):挙げてくださった『涙の女王』のように、韓国ドラマの王道ストーリーを俳優の新鮮なケミストリーや、演技そのものの上手さで見せていく作品が今年は多かったように思います。どんな俳優が出るか、どんなカップルや組み合わせになるかで全然カラーが違うんだと実感しました。それで言うと、私はまず『となりのMr.パーフェクト』。去年の座談会の最後でも、チョン・ヘインさんの次回作は久々のラブコメらしいという話題が出てて、みんな期待していたと思います。幼なじみが成長して再会し、昔のように喧嘩はするんだけれども、実はお互い再会までに人生でつらいこととか悲しいことを経験してきたことを知って、また新たなお互いの魅力を発見して関係を築いていくのが素晴らしかったです。この作品のチョン・ヘインさん扮するスンヒョがものすごく好きでしたが、特にチョン・ソミンさん扮するソンニュも現代女性の等身大キャラで良かったんですよね。背負うものが大きくて頑張りすぎてしまい、体を壊してしまったり挫折してしまうことでもう一度自分の人生を振り返って考えてみる姿は、今を生きている女性たちに重なると思いました。王道ラブコメなんですがひと味違う作品という印象です。王道ものでいうと下半期の作品ですが、『愛は一本橋で』もチュ・ジフンさんとチョン・ユミさんの化学反応が素晴らしいなと。「この演技の上手い二人がカップルなんだ!」みたいな新鮮さがあったのと、チュ・ジフンさんは18年ぶりのラブコメだったんですが、私、チュ・ジフンさんがすごい好きなんだってはっきり分かりました(笑)。社会派ドラマではNetflixの『旋風』です。夏に配信されていたソル・ギョングさんとキム・ヒエさんのドラマ、首相と経済副首相という政界の重鎮2人が、大統領の死をめぐって対立していくストーリーです。2人はもともと志を同じくしていて国民のための政治を目指していたんですが、いつからかキム・ヒエさん扮する経済副首相のほうが財閥と癒着するなど権力側へ傾いてしまい、道を違えてしまう。実に力強くて見ごたえがあって、韓国は政治ドラマを作るのが上手いと改めて思いました。軽く笑えて好きだったのは、昼は50代、夜は20代の姿になってしまうヒロインが事件捜査に活躍する『Missナイト & Missデイ』ですね。
にこ:『Missナイト & Missデイ』は、私もベストテンに入ります!
荒井:ですよね! この作品だけじゃなく、いわゆる中年世代の女性を演じられる俳優が豊富なところ、韓国ドラマ界がうらやましいです。イ・ジョンウンさんのコミカルさが序盤から炸裂していましたが、20代の主人公のほうを演じたチョン・ウンジさんも話数を重ねるにつれどんどん波に乗ってきて良い味を出していました。今現在観ている作品からだと、『オク氏夫人伝』も面白いです。
“イ・イギョン劇場”や“カン・フン劇場”が誕生
咲田真菜(以下、咲田):2024年はまず『私の夫と結婚して』にどハマりしてしまいました。 今年はファンタジー要素のあるお話が少なくなかったように思っていて、「これはいわゆるタイムスリップものと同じ感じなのかな?」と観始めたんですが、とにかく主人公ジウンを守るユ部長役のナ・イヌさんが好き過ぎて、本当にウットリさせられました! もちろんジウンを演じたパク・ミニョンさんはもともと好きでしたし、あんなに役作りで激やせしてどういう演技を見せてくれるんだろうと楽しみにしていたら期待通りの素晴らしさでした。そして、ジウンの夫で“クズ男”を演じたイ・イギョンさん(笑)。当選した宝くじが北朝鮮に飛んで行っちゃう映画『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』をたまたま観てたんで、その北朝鮮兵士役とのギャップがもうすごかった。本当にクズ男なんですが(一同笑・うなずく)、すごくいいなって思いました。
にこ:『私の夫と結婚して』は、“イ・イギョン劇場”でしたね。
咲田:本当にムカつかせるのが上手いんですよね(笑)。
にこ:『ウラチャチャ My Love』でも、イ・イギョンさんがめちゃくちゃコミカルな演技をしまくってるんです。そのことで本国では面白いキャラで定着したところがあったんですが、そんな彼がああいうクズ男を演じているというギャップですよね。すごく最低で、でも最低過ぎてもうギャグになっている感じでした。
咲田:まさにそのギャップにやられました。『宝くじの不時着』は作品自体がすごくコミカルだったので、イ・イギョンさんはドラマのような感じではなかったんです。だから「何なんだこの人は!?」って思いました。あと今年はU-NEXT作品を結構観てまして、その中からだと『卒業』ですね。
にこ:ウィ・ハジュンさんのドラマですね!
咲田:どうしても『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』をイメージさせるところや、“このシーン、同じ景色では?”って思うところも確かにあったりはするんですが、それを差し引いても、年下の自分の教え子と恋愛関係になっていく展開を静かに描いてくれていてしっとりしてていいなと思いました。教師役のチョン・リョウォンさんは特別すごく美人というわけではないんですがどこか魅力がある方でしたしね。そしてやっぱり『ソンジェ背負って走れ』は外せない。あそこまでの情熱で推しを推せるというシチュエーションと、実はその推しが自分のことを好きだったなんていうのは憧れですよね。そこでもうグッと心を掴まれて一気に観てしまったというところです。もう一つは、主役のシン・ヘソンさんが目当てで観た『私のヘリへ ~惹かれゆく愛の扉~』。観始めると、カン・フンさんがものすごく良くて……! すごく切ない感じで、カン・フンさんのセリフでボロボロ泣けてしまったので、私の中では“カン・フン劇場”でした。それからリメイク作『捜査班長 1958』も、元々のオリジナルを私は知らないにもかかわらず結構グッとくるシーンもあったりして、最終回は震えました。また、今現在観ている作品なのでランク外ですが『ジョンニョン:スター誕生』。いち舞台ファンとしても、キム・テリさんの才能の爆発を感じます。
にこ:去年の座談会で、「『力の強い女 カン・ナムスン』の悪役がすごく良かったから、来年はピョン・ウソクの人気が出るんじゃないか?」とか、「『無人島のディーバ』のチェ・ジョンヒョプが来る」なんて予想していたら、2人とも本当に大ブレイクしましたよね! ピョン・ウソクってものすごくカッコいいのに、彼にグッとハマる作品がこれまであまりなかったんじゃないでしょうか。それが『ソンジェ背負って走れ』で魅力が爆発した感じです。歌がものすごく上手で、劇中バンドのECLIPSEがK-POPのヒットチャートに上がるほどシンドロームが起きていました。2番手キャラのソン・ゴニさんも人気が出ましたし、キム・ウォネさん扮するソンジェのお父さんとのエピソードも良かった。咲田さんがおっしゃっていたように、推しと恋愛できるっていうのはもう全オタクの憧れですよね(一同笑)。あと私が好きだったのは、最初は半身不随だった主人公ソルがその後タイムスリップをしていく展開ですね。通常タイムスリップものって過去はあまり変えられないセオリーだったんですが、この作品は変えていってくれるじゃないですか。嬉しい方向にストーリーが運んでいくんですよね。じっくり語るというよりは、キャーキャー楽しめる作品が来たというところでした。
咲田:『私の夫と結婚して』も同じです。未来を良い方向に変えていくじゃないですか。ついてないことばかりだったパク・ミニョンの人生を、ピンチはたくさんある中でもナ・イヌと一緒に変えていくのがとても良かったです。エンディングもすごく良かったので、気分良く見れました。
にこ:その通りだと思います!
咲田:タイトルも出だしも、年の始めから何となく悪い話なのかな……なんて思ってもいたんですけども(笑)。スカッとしました!
にこ:韓国ドラマの主人公が不遇で酷くいじめられていて、「うう~(怒)」って思いながらスカッとさせられるのが良いですよね。ところでお2人は、『白雪姫には死を~BLACK OUT』はご覧になってますか?
咲田:観てないんですよ……。
荒井:1話で止まってしまってます(苦笑)。
にこ:じゃあネタバレを避けながら(笑)。『怪物』を彷彿とさせるヴィレッジミステリーなんです。地域のコミュニティで少女の殺人事件が起きて、犯人とされた同級生が10年間投獄されますが、主人公は酔っていてそこから記憶がないんですよね。 自分が本当に殺したのか分からないと。前半はそうやって進むんですが、後半からあの人も怪しい、この人も怪しい……みたいにみんな怪しく見えてきて、ヴィレッジミステリーの面白さにエンジンがかかるんです。アガサ・クリスティーの『オリエント急行殺人事件』のようで全然違う観点が浮かび上がってくるんですよ。ドイツの小説が原作になっているんですが、「タイトルは何を表してるのか?」「白雪姫とは誰なのか?」とか考えるのもすごく面白いんですよね。主人公の殺人の疑惑をかけられるピョン・ヨハンさんが今回見事な演技を見せています。記憶がないことで困惑しながらも控訴せず懲役へ行くんですが、実は少女の遺体が見つかっていないんです。殺された少女の家族からは「遺体を返してくれ」と言われるので本人も必死で思い出したいけれど思い出せない。そんなところに少女が亡霊として現れて「私を見つけて」って言ってくるんですよね。ぜひ年末年始の一気観をおすすめします。私は朝6時まで観てしまいました!