“アカデミー前哨戦”トロント映画祭を振り返る 『ジョジョ・ラビット』はジンクス証明なるか?

第44回トロント映画祭を振り返る

 9月上旬の開催というタイミングと、北米で最大規模の映画祭というポテンシャルも相まって、近年賞レースに向けた有力作が北米プレミアの場として選ぶようになったトロント国際映画祭。華々しくお披露目をし、批評家たちの支持を集めて作品の存在を周知させ、10月から11月ごろにかけて劇場公開することで興行的成功もしくは高評価を集める。そうすることで、年末ぎりぎりに公開される作品よりも充分なキャンペーンを積むことができると同時に、年初めのサンダンス映画祭や5月のカンヌ国際映画祭でお披露目された作品よりも極めてフレッシュな印象を維持したまま賞レースへと臨むことができるのである。

『ジョジョ・ラビット』より、タイカ・ワイティティ監督とキャスト(c)2019 Twentieth Century Fox(左から3番目が、ワイティティ監督)

 先日幕を閉じた今年のトロント国際映画祭で、本映画祭におけるグランプリと呼べる位置付けにある「ピープルズ・チョイス・アワード(以下、観客賞)」を受賞したのはタイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』。第二次大戦下のドイツを舞台に、空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーの助けを借りながら立派な兵士になろうとする少年ジョジョが、ある時ユダヤ人の少女を母親が匿っていることを知るという物語だ。非常に早い段階からアカデミー賞の有力作品の一角として噂されていた本作は、必然的に来年の第92回アカデミー賞作品賞への“最初の切符”を手にしたと言ってもいいだろう。

『ジョジョ・ラビット』(c)2019 Twentieth Century Fox

 しかしながら、この『ジョジョ・ラビット』。トロントでお披露目されたばかりの段階では批評家からの賛否が分かれ、下馬評ほど熱狂的な盛り上がりを見せることがなく、昨年トロントの観客賞からアカデミー賞作品賞へと上り詰めた『グリーンブック』を彷彿とさせるという声も。“空想上のヒトラー”という大胆不敵な発想と、アカデミー賞と相性が良いナチスドイツを題材にした作品(そのイメージはいまだに強いが、近年はそれほど目立っていないのも事実であるが)、そしてコメディやアメコミ作品を手がけてきたワイティティ監督が新境地に挑んだ点など、様々な期待すべきポイントがあったわけだが、はたして本作は近年のトロント国際映画祭とアカデミー賞の関係性を裏打ちすることができるのだろうか。

 遡ること10年前、第82回アカデミー賞から作品賞の候補枠が65年ぶりに“5枠以上”となった(初めは10枠で、その後もルールの変化を重ねて5〜10枠という形で落ち着いたわけだ)。この変革は、その前年に大絶賛を集めた『ダークナイト』が作品賞候補に挙がらなかったことなど、年々保守的なアカデミー側と観客の“民意”との乖離が浮き彫りになっていったことで、アカデミー賞への関心が薄れたことを受けてのテコ入れのひとつである。映画関係者の評価も残しながら、“民意”をきちんと反映させて作品と観客、そしてアカデミー賞をしっかりと結びつける。結果的に枠を増やしたことによってそれまでなかなかアカデミー賞では相手にされなかったSF映画やアニメーション映画、インディペンデント映画などが作品賞候補に入りやすくなり、昨年にはアメコミ映画として初めて『ブラックパンサー』、批評家からの評価とは裏腹に大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』が候補入りを果たしたのだ。

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