『日本一の最低男』は強烈な政治風刺作だった “エンタメ化する選挙”に警鐘を鳴らす傑作

木曜劇場(フジテレビ系木曜22時枠)で放送されていた『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノでした』が3月20日に最終回を迎えた。
本作は、フリーの政治ジャーナリスト・大森一平(香取慎吾)が区議会議員選挙に出馬する物語。
一平は、テレビ局でニュース番組のプロデューサーを務めていたが、部下へのパワハラ疑惑が原因でテレビ局を退社。起死回生の手段として政界進出を目論む一平は、義理の弟でシングルファーザーの小原正助(志尊淳)と同居し、長女のひまり(増田梨沙)、長男の朝陽(千葉惣一朗)の子育てに協力する姿をSNSにアップすることで高感度を上げようと考える。

物語は、第1話~第8話がニセモノ家族編、第9話~第11話が選挙編となっており、序盤は傲慢で世間知らずのジャーナリストだった一平が子育てに関わり地域の人々と触れ合う中で、様々なことを学んでいく姿が描かれている。
本作のプロデューサー・北野拓は元NHK出身で、本作はフジテレビで手がける初の作品となる。沖縄で報道記者としての経験がある北野のドラマは、綿密な取材の元に作られており、野木亜紀子が脚本を担当した『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』(NHK総合)と『連続ドラマW フェンス』(WOWOW)は、北野のジャーナリスティックなアプローチが活かされた社会派ドラマの傑作に仕上がっていた。
そんな北野が、選挙のドラマを作ると知ったときは、とてもワクワクしたのを覚えている。
2024年は国内外で選挙が盛り上がった年だった。SNSと投稿動画サイトが選挙の主戦場となったことで、政治に対する関心が再び高まっている。だが、その盛り上がりの背景にあるのは両陣営の熾烈な情報戦で、虚偽の情報が原因で酷い事件に発展することも増えている。何より選挙が候補者を“推し活”するための劇場と化している状況を観ていると、今や政治こそが最大の娯楽だと感じる。

ドラマや映画ならリアリティがないと却下されるような超展開が政治の世界では毎日のように起こっている。そんなSNS時代の選挙の面白さといかがわしさにどこまで肉薄できるのか? それが『日本一の最低男』に対する一番の期待だったが、本作はまず子育ての問題を通して、足元の現実を丁寧に見つめ直すことを選んだ。
その結果、社会問題を盛り込んだ堅実で真面目なホームドラマに収まっているというのが「ニセモノ家族編」の印象だったが、「選挙編」に入ると現実の選挙戦を反映したような展開が一気に押し寄せていくる。
住民の意見を無視した再開発プロジェクトを推進する区長の長谷川清司郎(堺正章)に反旗を翻し、一平は区長選に出馬する。しかしテレビ局員時代に部下の野上慧(ヘイテツ)におこなったパワハラが報じられ、一平は窮地に追い込まれる。悪評を返上するために一平は、現在は暴露系の動画配信者として活動する野上と対峙し、その様子を生配信する。そこで一平は区長が部下に対して厳しく当たるパワハラの映像を公開する。
最終話、一平の動画をきっかけにネットは炎上。現区長の長谷川は出馬を辞退し、後継者の衆議院議員・黒岩鉄男(橋本じゅん)が立候補する。