興収で読む北米映画トレンド
実写版『白雪姫』北米No.1も期待に及ばず 空前の物議は興行成績に影響したか?

ディズニーによる実写映画版『白雪姫』が試練にさらされている。3月21日に北米公開された本作は、週末3日間でオープニング興行収入4300万ドルを記録。北米週末ランキングではNo.1に輝いたものの、期待されていた5000万ドルを超えるには至らなかった。
1937年に製作されたアニメーション映画の名作を、『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)のレイチェル・ゼグラー主演、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズのマーク・ウェブ監督の手で実写化した本作は、ディズニーが近年積極的に取り組んできた “名作実写化”のひとつだ。
4300万ドルという初動は、コロナ禍以前の『ダンボ』(2019年)の4599万ドルを下回り、“名作実写化”のなかでは最も低い成績。『マレフィセント2』(2019年)や『クルエラ』(2021年)を上回ってはいるが、これらは実写版リメイクというよりもアニメーション版からインスピレーションを受けた翻案作品なので、同じ条件での比較はできないだろう。
日本を含む海外市場では、同じく事前の予想を下回る4430万ドルで、全世界興行収入は8730万ドル。1億ドル超えもありうるとみられていただけに、残念ながら期待外れのスタートとなった。

もっとも、実写版『白雪姫』ほど激しい批判と議論にさらされた企画はなかった。ポーランド系とコロンビア系の両親をもつゼグラーが白雪姫役に起用されたことは、アリエル役に黒人のハリー・ベイリーを配した『リトル・マーメイド』(2023年)を思い出す苛烈なバッシングを呼び、さらにイスラエル出身のガル・ガドットが女王役を演じることも物議を醸したのだ。
ゼグラーがパレスチナ支持を、ガドットがイスラエル支持を公言し、両者の関係が悪化したという報道もあるなか、SNSではゼグラーによるオリジナル版『白雪姫』への批判的発言が注目され、ファンの反発を招いた。さらに時間を遡れば、“7人のこびと”をめぐる配役や演出は撮影段階から批判を浴びていたのである。
公開直前の波乱を避ける狙いもあったのだろう、ディズニーはいつになく本国でのプロモーションを抑え、ロサンゼルスでのプレミアイベントも規模を縮小して開催。レッドカーペットのインタビューも行われなかった。その一方、製作費は2億5000~7000万ドルという高額と伝えられている。
しかしながら興味深いのは、北米の専門家たちが「一連の批判や議論がオープニング興行収入に影響を与えたわけではない」との見方を示していることだ。最大のターゲットであるキッズ&ファミリー層のほとんどは、キャスティングや俳優の政治的スタンス、表現の多様性などをさほど意識していないはずだと。
かわりに推測されているのが、そもそもオリジナル版『白雪姫』が88年前の作品であり、『ライオン・キング』や『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』ほどの訴求力を備えていなかったのではないか、またディズニーが実写版リメイクを短期間に作りすぎたことで観客の興味を削いでしまったのではないかという説だ。
Rotten Tomatoesでは批評家スコア44%・観客スコア74%と、批評家からの支持はやや低い。映画館の出口調査に基づくCinemaScoreも「B+」評価で、ほとんどが「A」評価を獲得するディズニー作品としては厳しい結果だ。こうした反応には、おそらく一連の議論も少なからず影響を与えているものと思われる。