【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー
コバルト文庫のアンソロジー、目玉は宮本武蔵と佐々木小次郎の「巌流島」? 注目のライト文芸5選

『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回はコバルト文庫50周年記念のアンソロジーから「小市民」シリーズ最新作まで、5タイトルをセレクト。
『コバルト・プレイバック・アンソロジー part1』(集英社オレンジ文庫)
1976年の創刊以来、集英社のコバルト文庫はさまざまな作家とヒット作を世に送り出し、女子中高生を中心に熱い支持を集めてきた。今年はレーベル創刊50周年の節目にあたり、コバルト文庫の歩みに光を当てた展覧会や、往年の人気作のオレンジ文庫での復刊などが続いている。本作はその流れを汲んだ一冊で、コバルト文庫を代表する人気シリーズの完全書き下ろし新作が一堂に会する、ファン垂涎の豪華アンソロジーだ。
取り上げられているシリーズは、青木祐子の『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』、榎木洋子『リダーロイス』、今野緒雪『マリア様がみてる』、真堂樹『四龍島』、須賀しのぶ『流血女神伝』、野梨原花南『ちょー』、前田珠子『聖石の使徒』、若木未生『ハイスクール・オーラバスター』の8作。
いずれの短編も高い完成度を誇るが、とりわけ強いインパクトを残すのが今野の「JK巌流島」だ。カトリック系女子校に通う女子高校生たちの青春の日々と、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での戦いという異色の要素が融合し、唯一無二の世界が生み出されている。漫才をモチーフにしたコミカルな描写を基調にしつつ、随所で『マリみて』らしさを打ち出し、最後の姉妹(スール)の絆で泣かせるという、完璧な構成に唸らされた。粒ぞろいの作品が揃ったアンソロジー、part2にも期待を寄せたい。
日崎アユム『果てなき蒼を統べる王』(角川文庫)
育ちの異なる男たちが過酷な運命に立ち向かう、熱いバディ関係と重厚な設定が魅力の和風ファンタジー。
未曽有の大地震で分断された日ノ本。異能の力を持つ狩野一族が葦津を統治し、周辺の同盟国をも配下に収めていた。狩野家の三男・夜隆は、長兄で盟主の雲隆と、しっかり者の次兄・月隆のもと、末っ子として甘やかされてのびのびと暮らしていた。ところが雲隆が落馬事故で半身不随になってしまい、盟主問題が持ち上がる。側室の子である月隆は、夜隆を脅威に感じて長兄暗殺の疑いをかけ、彼を城から追放した。
信頼する兄に裏切られ、劣悪な環境の奴隷船に乗せられた夜隆を救い出したのは、美少年の海賊・夢之助だった。なぜか突っかかってくる夢之助と、険悪な空気を漂わせながらも生活を共にしていく夜隆。箱入り息子で世間知らずだった彼は、夢之助と行動を共にする中で、初めて民たちが置かれている窮状を知ることになる。やがて彼は、盟主の器ではない月隆を倒そうと立ち上がるのだった。
すべてを失った夜隆は当初は無気力になっていたが、夢之助はそんな彼を許さず、厳しい言葉をかけ続ける。尊厳を踏みにじられて生きてきた夢之助が、夜隆に抱く思いは複雑で、激重感情を抱えた主従関係好きの心をくすぐる展開は本作の何よりの見どころだ。世間知らずだった夜隆が覚醒していく姿は圧巻の一言。胸を熱くするドラマの果てに待つ極上の読後感は、読者の心に爽やかな余韻を残すだろう。
米澤穂信『倫敦スコーンの謎』(創元推理文庫)
シリーズ累計部数110万部を突破し、第10回吉川英治文庫賞も受賞した大人気「小市民」シリーズの第二短編集。
過去の苦い関係から、小市民として平穏な高校生活を送ることを目指す小鳩常悟朗と小佐内ゆき。二人は密かに互恵関係を結び、目的を達成するためにお互い利用し合っている。『倫敦スコーンの謎』は、そんな二人が高校1年の冬から2年の夏にかけて遭遇した、4つの奇妙な事件を描く。
高校のOBで美術家として活躍する縞大我の在校時代の受賞作が発見されたが、その絵は有名な絵画の模写であり、盗作の疑いがかけられていた。盗作か否かを突き止めるために、小鳩と小佐内は調査に巻き込まれていくが……。他にも、絶品ジェラートを目の前にしながらなぜか手をつけないままの人や、調理実習で完璧な手順で作られたはずなのに生焼けに終わったスコーンの謎、高校で講演をすることになった縞大我宛に届いた脅迫状の真相をめぐり、二人は鋭い観察眼と推理力で謎を解き明かしていく。
表題作の「倫敦スコーンの謎」を筆頭に、各話にはそれぞれモチーフとなるスイーツが登場する。だがストーリーは決して甘くはなく、ほろ苦さの漂うビターな味わいが残るだろう。ささやかな日常の謎をきっかけに、複雑な人間感情が浮き彫りになる様や、一見バラバラに見えたエピソードが繋がることで、思いがけない真実が浮かび上がる。そんなスリリングな展開が魅力の一冊だ。
蒼月海里『神保町宝石書店』(小学館文庫キャラブン!)
どこか懐かしくも温かな世界と、理科的なエッセンスを取り入れた描写が魅力の蒼月海里。最新作は世界的にも有名な本の街・神保町を舞台に、古書と鉱物を商う少し不思議な書店と、お店を切り盛りする二人の男たちの絆を描く。
神保町の路地裏にひっそりとたたずむ「神保町宝石書店」。石にまつわる書物と、紫水晶やアクアマリンなど色とりどりの宝石の原石がひしめくお店は喫茶店も兼ねており、鉱物をモチーフにしたスイーツの数々もお客を楽しませている。店舗を切り盛りするのは二人の青年で、カフェを担当する御手洗柚子は物腰やわらかで接客がうまく、黒石大也は深い鉱物愛と豊富な知識を持つが少し気難しいところもある。「神保町宝石書店」にはさまざまな悩みを抱えた人たちが引き寄せられ、鉱物との出会いを通じて、自らの進むべき道を見出していくのだった。
「神保町宝石書店」というお店の絶妙な設定は、本作の何よりの見どころである。古書に鉱物というそれぞれ愛好家が多いジャンルが混ざり合うことで、より一層ディープかつキラキラとした世界が広がっていく。宝物が詰まった隠れ家的ショップは、憧れと夢想をかきたてずにはいられない。そんなお店に迷い込んだ人たちを相手に、柚子と大也はそれぞれの特技を生かして接客し、心の悩みや迷いを解きほぐしていく。二人が織りなす絶妙なコンビネーションと、随所にちりばめられた美しい鉱物の姿に癒されたい。
千花鶏『女王の化粧師1』(文春文庫)
名作の呼び声が高い伝説のWEB小説『女王の化粧師』が、装いも新たに紙の本で蘇る。
芸技の国・デルリゲイリア。花街の娼館で暮らす15歳のダイは、腕利きの化粧師としてその名を知られていた。ある日ダイのもとに、ミズウィーリ家の当主代行を務める男・ヒースが現れる。ヒースは、5人の貴族の令嬢が王位継承者を争う女王選でミズウィーリ家の令嬢マリアージュを勝たせるために、ダイの力を借りたいと引き抜きを持ちかけた。葛藤の末、ダイは自分の技術を欲しがるヒースの元で働く道を選び、花街を出て貴族の館で暮らし始めた。だが主人であるマリアージュは癇癪持ちかつ世間知らずな娘で、おまけに貴族たちは化粧に対する根深い偏見を持ち、ダイの役割を理解しようとはしない。ダイは化粧師としてのプライドをかけて奮闘するも、新生活は前途多難を極めるのだった。
化粧師として生きる職人ダイの仕事に打ち込む姿、平民出身の使用人ながら没落したミズウィーリ家を建て直そうとするヒースの野心、そして無知ゆえに様々なコンプレックスをこじらせたマリアージュ。三者それぞれの思いがバチバチにぶつかり合う様は緊張感に満ちており、権謀術数ファンタジーの醍醐味を存分に味わえる。2巻以降もますます加速してゆく物語を、ぜひ最後まで堪能してほしい。





























