「このミス」大賞作の続編は高校生と対決? 少女の青春から30代後半の新生の悩みまで、注目のライト文芸

「このミス」大賞作の続編は高校生と対決?

 『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回はバレエ×少年漫画×AIのラブストーリーから「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の続編まで、5タイトルをセレクト。

雪村花菜『真夜中の寄宿舎で秘密のお茶会を』(KADOKAWA)

 『紅霞後宮物語』で知られる著者の初単行本は、英国風の王国を舞台にした学園ミステリー。

 レイノルズ女学院は、現在の王太后が創設した全寮制の学び舎。本が大好きなクラリッサ、面倒見のよいベアトリス、貴族の令嬢のアストリッドは、寄宿舎の同室で暮らす最上級生である。ある夜、クラリッサは大階段にある時計が逆回転していることに気づく。ふとした思いつきから手鏡で時計を映してみると、そこには見知らぬ少女の姿が浮かび上がった。おばけに怯えるクラリッサだが、その後事態は急転する。学院長に呼び出された三人は、王太后から直々に少女を助けてほしいと頼まれたのだ。謎の少女の正体は一体何者なのか。なぜ彼女は異界に閉じ込められているのか。クラリッサたちは探索に乗り出すのだが……。

 ジーン・ウェブスターの『おちゃめなパティ』や氷室冴子の『クララ白書』など、寄宿舎×仲良し三人組という王道の様式には、いつの時代もときめきが詰まっている。本作もまたその系譜に連なり、鏡を通した謎の少女との交流や真夜中の秘密のお茶会など、幻想的なイメージを鮮やかに描き出す。三人の少女が見せる愉快な掛け合いも微笑ましく、学園小説の醍醐味を存分に味わえる。随所に差し挟まれる謎の手紙が真相へと繋がるとき、読者の心には温かな感動が残るだろう。

泉サリ『ペン先とトゥシューズ』(集英社オレンジ文庫)

 ガールズバンドと新興宗教を鮮烈に描いたデビュー作『みるならなるみ/シラナイカナコ』以来、多彩なテーマを打ち出してきた著者。最新作は、バレエと少年漫画とAIが交錯する、ユニークなラブストーリーである。

 馬場カンパニーのプリンシパルとして活躍する27歳の黒峰令治は、美しさを何より愛するナルシスト。若手が突き上げる中で『白鳥の湖』のオーディションに挑もうとするが、健康診断でガンを宣告され絶望の淵に立たされていた。一方、瀬田美空は週刊少年ガッツで『秀がENERGY』を連載する人気漫画家である。アニメ化を果たすほどの成功を収めた彼女だったが、最近は作品の勢いに陰りが見え、焦燥感を募らせていた。崖っぷちに立つ令治と美空のもとに、アーティストの技術をAIに学習させるプロジェクトの依頼が舞い込んだ。二人はその会場で最悪の対面を果たし、以後も否応なく関わりをもつことになるのだが……。

 芸術至上主義でマンガを低俗だと見下す令治は、当初こそ鼻持ちならない男として描かれる。しかし、物語が進むにつれてその不器用な素顔が露わになり、気づけば読者は彼の恋を応援せずにはいられなくなるだろう。一方で、そんな彼に反発する美空の心理描写も極めてリアルで、共感を禁じ得ない。相反する二人の複雑な内面に切り込む見事な筆致を楽しんでほしい。

畑野智美『30代後半、独身、ひとり暮らし』(小学館)

 30代後半という年齢は、女性にとって悩みや迷いが増える時期である。ここまで結婚をせずに来たけれど、本当にこのままでよいのか。出産のタイムリミットも徐々に近づく中で、お金や健康にまつわる悩みを抱える人も少なくないだろう。本作は、女性たちが抱える心のもやもやに寄り添い、その葛藤へ真っ向から向き合った物語である。

 『月収十五万円、六畳一間で夢をかなえる』で漫画家デビューした主人公・藤波夏帆は、節約やライフスタイルを中心としたエッセイマンガを手掛け、それなりの成功をおさめてきた。しかし、38歳を迎えた今、かつて得意とした節約や時短レシピの仕事に違和感を抱き始める。私生活では腐れ縁の脚本家の恋人が気まぐれに家に現れては、仕事もせずに居座る日々。仕事も私生活も、気づけば袋小路に入り込んでいる。現状を打破すべく、夏帆は新連載に向けて新たなテーマを模索し始めるのだが――。

 漫画家としての成功を手にしたあとも、夏帆の生活はあくまで堅実だ。細やかに綴られる彼女の暮らしぶりや、身近な素材で手際よく仕上げる節約料理の数々は、思わず真似したくなるヒントが詰まっている。タイトルには独身と掲げられているが、夏帆の妹や友人ら、子育てや離婚経験といった多様なライフステージにある女性たちの姿も描かれる。彼女たちが葛藤の末に下した決意は、同じように悩み迷う私たちの背中を後押ししてくれるだろう。

六つ花えいこ『聖女の、遺産』(新潮文庫nex)

 『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから(※ただし好感度はゼロ)』などで人気の著者による、切なくも尊いラブストーリー。

 幼い頃に両親を亡くした片峰奈枝は、祖父母のもとで深い愛情を受けて育った。しかし、唯一の肉親であった祖母も他界し、天涯孤独の身となってしまう。ある日、奈枝は祖母の形見である衣装箪笥の引き出しから、異世界の「聖域」へと転落する。そこで出会ったのが、傷だらけの孤独な少年・セイクリッドだった。私生児として兄たちから虐げられている彼を放っておけず、奈枝は日本と異世界を行き来しながら献身的に彼を見守り続ける。しかし、二つの世界には時の流れの差があった。再会を繰り返すうちに、大学生と子供だった二人の年齢差は急速に縮まっていく。そんな中、些細な誤解から二人は喧嘩別れをしてしまう。追い打ちをかけるように、その日を境に箪笥は二度と異世界へ繋がらなくなり、謝ることさえ叶わぬまま月日だけが流れていった――。

 奈枝の優しさに救われたセイクリッドは、以後聖域の守護者としての道を歩み出し、気まぐれに現れる奈枝をひたすら待ち続ける。弟としてしか見てもらえない状況の中での一途すぎる恋心や、もどかしい二人のすれ違いに、胸が締め付けられる。両片思い好きにとりわけおすすめしたい、極上のラブストーリーだ。

土屋うさぎ『謎の香りはパン屋から2』(宝島社)

 「このミステリーがすごい!」大賞受賞の大人気シリーズ第2弾。

 市倉小春は大阪府豊中市にある個人経営のパン屋〈ノスティモ〉でアルバイト中の大学生。漫画家を目指している小春は、ついにデビューのチャンスを掴み、バイトの合間にマンガ制作にも打ち込んでいた。優れた観察力と推理力を持つ小春は、〈ノスティモ〉を舞台に巻き起こるさまざまな事件を解決する。意欲に満ちていたはずの新人高校生は、なぜ突然バイトを辞めようとするのか。地震で無惨に崩れたウェディングケーキには、どのような真相が隠されているのか。そして、元従業員から叩きつけられたパン対決の行方は――。小春は事件の裏に潜む人々の切実な思いを鮮やかに解き明かしていくのだった。

 パン屋を舞台にしたミステリーには、メロンパンやデニッシュ、カツサンドにフレンチトーストなど、香ばしくておいしいパンの数々が登場する。食欲をそそる食べ物描写と、温かな人間ドラマは、読者の心をおいしく満たしてくれるだろう。漫画家という夢を追い、連載を掴むためにあがく小春の姿も、ひたむきで愛おしい。パンが結ぶ人と人の絆を描く、ほっこりと優しい日常のミステリー。その極上の味わいを、ぜひ堪能してほしい。

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