藤本ひとみ『まんが家マリナ』が30年越しの完結へ 『朱天の都』『オークの樹の下』など、いま読みたいライト文芸5選

『少女小説を知るための100冊』や『少女小説とSF』などの著作で知られる書評家の嵯峨景子が、近作の中から今読むべき注目のライト文芸をピックアップしてご紹介する連載企画。今回は30年越しの完結へと向かう藤本ひとみの伝説のシリーズから19世紀のロンドン寄宿学校を舞台にした怪異譚まで、5タイトルをセレクト。
藤本ひとみ『愛からはじまるサスペンス まんが家マリナ最初の事件』(集英社オレンジ文庫)
1985年に集英社コバルト文庫でスタートし、美形キャラの数々と華麗なストーリーで少女たちの胸をときめかせた『まんが家マリナ』。累計発行部数700万部を誇るヒット作であり、30年以上も未完だった伝説のシリーズが、オレンジ文庫で復刊&完結へと動き出した。
三流少女まんが家のマリナは、担当編集から次のアンケートも最下位ならクビだと最後通牒を突き付けられる。崖っぷちに立たされた彼女は、起死回生を狙って「大音楽大河恋愛セクシーロマン」を描くことに。取材のために中学時代の友人・響谷薫に連絡を取り音楽学校を訪れるが、そこでは名器のバイオリン・ガダニーニを巡る恐ろしい殺人事件が待ち受けていた。
マリナが取材で訪れた先々で事件に巻き込まれ、真相究明のために奔走する本作。シリーズ第一弾はクラシック音楽、第二弾『愛の迷宮でだきしめて!』はパリを舞台にレオナルド・ダ・ヴィンチをめぐる謎解きなど、古今東西の歴史や文化を盛り込んだストーリーは波乱万丈で知的好奇心をくすぐる。本作は元祖逆ハーレム小説としても名高く、アンニュイな男装の麗人・響谷薫や、シリーズ屈指の人気キャラ・シャルル、幼馴染の黒須和矢らと繰り広げるロマンスも見どころたっぷりだ。どんな状況でもめげないパワフルで明るいマリナの姿と、美形キャラたちの名ゼリフの数々は、令和になっても読者の心を射抜くだろう。
加賀谷きよい『朱天の都』(新潮社)
朱天童子伝説の新たな解釈のもと、鬼と人との均衡が崩れつつある時代を描く日本ファンタジーノベル大賞2026の受賞作。
16歳で入内した尚侍は、帝と子をなす前に後ろ盾である父を亡くし、以来忘れ去られたように麗景殿で暮らしていた。その後、訳あって里に下がった尚侍は、鬼の首領・朱天童子と出会う。童子の姿をした朱天童子は尚侍を気に入り、尚侍も異形でありながらどこか人懐っこい鬼に心を許していった。政治の腐敗が進む京の都では、相次ぐ飢饉と疫病で多くの人が亡くなり、姫君たちの謎の失踪も続いている。帝はすべて鬼のせいだと断じ、朱天童子の討伐を命じるのだが……。
物語は、尚侍や朱天童子たちが生きる平安中期と、御伽噺を集める男・清右衛門が謎の老翁から朱天童子伝説を聞くパートを交差させながら進む。鬼たちは人間を喰うと恐れられているが、次第に人間が持つおぞましい一面が明かされ、鬼は悪で人間は正義だという固定観念が突き崩されていくだろう。禍々しさと無邪気さを併せもった多面的な顔が魅力の朱天童子や、女としての哀しみを乗り越えて自らの人生を歩み出す尚侍を筆頭に、ユニークなキャラクターたちが物語を彩っていく。巧みな構成とストーリーテリングが光る、極上の平安ファンタジーだ。
如月新一『横浜馬車道 葦屋陰陽道のやり口 うそつきはゆうれいの始まり』(ことのは文庫)
横浜を舞台にした物語を紡ぎ続ける小説家の如月新一。最新作は横浜馬車道に事務所を構える陰陽師×生真面目な小説家が繰り広げるバディミステリだ。
小説家の近森憐太郎は、担当編集者の四宮から泣けるホラーを依頼され、インスピレーションになればといわくつきの絵を預かった。だがその絵は夜のうちに近森の手元から消え、四宮の家のベランダに現れる。怪現象に驚いた四宮は、勝手に帰ってくる絵の真相を突き止めようと近森を連れ、陰陽師を名乗る葦屋世道の事務所を訪れた。眉目秀麗な男だがどこか胡散臭い葦屋は、言葉巧みな詐欺師なのか、それとも本当に陰陽師なのか。その後、とある事情で近森は住まいを失い、葦屋の事務所に身を寄せて助手として彼の仕事を手伝うようになるのだが――。
葦屋の仕事に巻き込まれる近森自身も、小説家としてさまざまな嘘を書き続けている人間だが、彼の中には「ついていい嘘とダメな嘘」が明確に存在する。一体なぜ近森はこれほどまでに嘘の内容にこだわりつづけるのか、その背景が明かされる第五話「哀のポルターガイスト」がとりわけ強い印象を残す。悪霊や呪いの真相を暴くミステリとしてはもちろん、それぞれに嘘を仕事道具にする近森と葦屋が繰り広げる会話劇も油断のならない緊張感があり、キャラ小説としても魅力的な一作だ。
Kim Suji『オークの樹の下4』(KADOKAWA)
コミカライズが人気を博し、累計部数50万部を突破した注目のロマンスファンタジー原作の最新刊。
父親から虐げられて育った公爵令嬢のマクシミリアンは、下級騎士のリフタンと政略結婚をした。その後、リフタンは大陸中に名を馳せる勇者となり、王女との新たな縁談話も持ち上がる。吃音がありスムーズに喋れない内気なマクシミリアンは、自分は夫にふさわしくないと自信を持てず、リフタンとたびたびすれ違っていた。夫の役に立ちたいと願うマクシミリアンは、治癒魔法を学んで魔法使いとしての能力を花開かせる。そして、魔物との戦いで遠征したリフタンを助けるために女司祭に扮して戦地に向かい、後方支援を行うのだった。だが、ついにマクシミリアンが戦地にいることがリフタンに知られ、妻を心配する彼は激怒するのだが――。
愛する妻をすべての危険から遠ざけておきたいリフタンと、夫のために働きたいマクシミリアン。お互いを思い合うからこそのすれ違いが切なく、じれったくももどかしいロマンスを堪能できるだろう。本巻でのマクシミリアンは戦場でみせる活躍のみならず、これまで自分を苦しめてきた父親と向き合い、窮地に陥った夫を助けるために大きな決断を下すなど、キャラクターとしても大きな成長をみせる。不器用なリフタンが見せる激しい愛情など、濃密なロマンスも本作の大きな見どころだ。
峰守ひろかず『グレンデル寄宿学校のふたり 十九世紀倫敦奇譚』(ポプラ社)
妖怪や伝承をモチーフに数々の物語を手掛けてきた著者がおくる英国怪異譚。
ときは19世紀ロンドン。郊外にある全寮制のパブリックスクール・グレンデル寄宿学校に通うノエルは気弱な少年で、横暴な寮長からたびたび金を巻き上げられてきた。ある日、サモン・キクチという古風な喋り方をする風変りな中途入学生が現れ、ノエルのルームメイトになる。怖いもの知らずのサモンは、ぐうの音も出ない正論を述べて寮長の不興を買い、校内を騒がせている「悪魔の足跡」の正体を確かめるよう命じられた。ルームメイトも運命共同体だとノエルも調査を手伝うが、その過程で彼は思いがけずサモンが抱える秘密を知ることになる。その後も二人は、首無しの怪物やテムズ川の水棲人、塔の吸血鬼などさまざまな怪異を調査する中で、一連の事件の裏に隠された恐るべき陰謀に辿りつくのだが……。
名門貴族の子息で父親の言いなりになっているノエルと、とある密命を受けて英国に渡った訳ありのサモン。それぞれに事情を抱えた二人が寄宿学校で友情を育むというパブリックスクールものの醍醐味に加えて、物語にはヴィクトリア朝ロンドンならではの怪異も多数登場する。近代化が進みつつあるロンドンの光と闇、そして激動の時代に生きる少年たちの姿が鮮やかに浮かび上がる本作。最後まで読んだ読者は、とあるサブキャラの正体にも驚かされるだろう。





























