2034年、宇宙人との“ファーストコンタクト”が起こったら……『地球壮年期の終わり』が描く、あり得るかもしれない人類の未来

林譲治『地球壮年期の終わり』を読む

 ファーストコンタクトの林譲治。そういいたくなるほど作者は、ファーストコンタクトを題材にしたSFを書き続けてきた。本書はその最新の成果だ。ちなみにファーストコンタクトものとは、人類と人類以外の知的生命体(宇宙人であることが多い)の遭遇を扱った作品、もしくは遭遇から生まれたドラマを描いた作品のことを指す。本書は遭遇から生まれたドラマといっていい。

 内容に触れる前にタイトルに注目しよう。あらためていうまでもなく本書のタイトルは、アーサー・C・クラークの古典『地球幼年期の終わり』を捩っている。この作品は、ある日、全世界の大都市上空に未知の大宇宙船団が現れる。〈上主〉と呼ばれる彼らは、遠い星系から訪れた、人類より遥かに優れた科学技術を持つ知的生命体だ。彼らに管理され、理想社会が実現されるのだが……。大きな謎は〈主上〉の目的であり、その他にも彼らの姿形が途中まで判明しないなど、読者の興味を惹きつけるフックを作り、物語は進行。今読んでも面白い名作である。本書はその『地球幼年期の終わり』を強く意識しているが、未読でも楽しく読むことができるので、安心して手に取ってほしい。

 舞台は、2034年。主人公は三人いる。一人目は、戦闘の続く北アフリカで、有志国連合の派遣部隊のため補給物資を運搬する仕事をしていたが、カミカゼドローンの攻撃を受け、トラックで砂漠を彷徨うことになった紅谷祐介だ。なんとか臨時物資集積所と思わしき場所にたどり着いたが、そこは破壊されていた。そして祐介は、宇宙服を着た体長三メートルのカスケリスという宇宙人と遭遇するのだった。

 二人目は、地中海を漂流する難民を救出する民間の病院船ガラテアで、偵察機の機長をしている藤堂直子だ。難民絡みでUAP(未確認空中現象)に遭遇した直子は、やがてブルスバリスと名乗る宇宙人と会うことになる。

 そして三人目は、自衛隊の機密に触れてしまい逃亡中の青沼玲香。絶体絶命の危機に陥ったとき、サタミホリスと名乗る宇宙人に救われ、新宿を目指すことになる。三人の宇宙人は同族であり、祐介の言葉から、自分たちを「スカベンジャー」というようになる。どうやら「スカベンジャー」の目的は、地球の侵略であり、そのために調査をしているらしいのだが、彼らの言動には不可解なことが多かった。

 という状況と人物の説明を経て、三人の地球人と宇宙人の、それぞれのドラマが展開していく。翻訳機を通じて宇宙人と意思疎通はできるが、どうにも噛み合わない。言葉は通じるが、話が通じないということが、ちょくちょくあるのだ。もちろん宇宙人側が何かを隠したり、はぐらかしたりしていることも多い。しかし一方で、異なる文化による認識の齟齬も露わになるのだ。

 たとえば冒頭でカスケリスは、食料を求める祐介に、攻撃されて死んだ臨時物資集積所にいた人々を食べないのかと聞く。そして激しく否定する祐介に、人間が人間を食べないなら、どうしてこのように大量に人間を殺すのかと疑問を呈するのだ。

 これはほんの一例に過ぎない。戦争、冨の偏在、フェイク情報の蔓延など、さまざまな地球のリアルが、宇宙人の視点で掘り下げられていく。本書は地球人と宇宙人、地球人と地球人の会話が大量にあり、その中から新たな知見を得た。思弁小説としても堪能できるのだ。

 それにしてもだ。本書は今から8年先の近未来が舞台である。現在の世界も問題山積みだが、作者の描き出した8年後の世界は、さらにメチャクチャになっている。それを象徴するのが難民だろう。詳しく書けないが、三人のドラマすべてで、難民が重要な意味を持っている。人類は、どこに向かっているのか。タイトルになっている“壮年期の終わり”の先に、何が待っているのだろうか。

 作者はあり得るかもしれない人類の未来を踏まえながら、新たな道を示す。宇宙人の真の目的が明らかになったとき、驚愕しながらも、受け入れたくなった。是非とも本書を読んで、それが何かを確かめてほしい。優れたSFならではの、壮大なスケールに圧倒されるはずだ。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる