浜辺美波×目黒蓮主演で注目『ほどなく、お別れです』小説としての魅力は? グリーフケアを描く意義

浜辺美波、目黒蓮が出演して映画化された長月天音著『ほどなく、お別れです』は、人気のグリーフケア(死別の悲嘆に寄りそうこと)小説で4冊(『ほどなく、お別れです』、『同 それぞれの灯火』、『同 思い出の箱』、『同 遠くの空へ』)が刊行されている。このシリーは、どのように始まったのか、単行本が2018年に刊行され、加筆改稿されて2022年に文庫化された最初の1冊をふり返ってみたい。
大学生の清水美空は、東京スカイツリーに近い葬儀場・坂東会館でアルバイトをしていた。僧侶の里見道生は、彼女に霊感があり死者と話せることを、友人で葬祭ディレクターの漆原礼二に伝える。里見も同様の能力があるため、見抜いたのだ。美空は、しばしば漆原について働くようになる。やがて坂東会館の社員になった彼女は、漆原の指導で葬祭ディレクターを目指す。
漆原はフリーの立場だが、独立後も坂東会館社長からの依頼を頻繁に引き受けていた。訳ありの葬儀を担当することが多い彼は、遺族の前では丁寧な言葉遣いで気づかいもするが、美空を含め社員相手には厳格な態度で毒舌を吐く。そんな漆原とともに美空は、遺族にとっても故人にとってもよい葬儀になるよう努力を重ねる。
物語で興味を引くのは、美空は就職活動中だが不採用が続いていることだ。彼女は、不動産業界を志望していた。子どもの頃からマンションの広告が好きで、「どんな家族が住むのか、ペットは飼えるのか」などと考え、理想の間取りを空想するのが好きだったのである。だが、どこからも内定をもらえないなか、以前にバイトしていた坂東会館からまたこないかと連絡がきた。人手不足なのだ。それをきっかけに漆原と出会い、仕事をするうちにやりがいを覚え、坂東会館への就職を考えるようになる。
漆原は、遺族への気配りがいき届いていると同時に、裏で「式をなんの問題もなく終わらせることが俺の仕事だからな」とビジネスライクな発言もする。このシリーズは、葬儀の段取りの大切さを描いた仕事小説でもあるのだ。
美空が坂東会館でホールスタッフのバイトを始めたのは、社長と美空の父が友人であり、礼儀作法が身に着くだろうと家族も乗り気だったからである。そばに死体があって怖くないだろうかという美空の不安に対しても、今の葬儀場はきれいで周りに人がいっぱいいるなどといって、家族は問題にしなかった。だが、いざ就職となると、バイトでやっていた配膳の仕事を正社員になっても続けるのだと思った親たちは難色を示す。それを知った漆原は、美空に葬祭の仕事をすることを勧め、彼女の家族の説得に乗り出す。
「大切なご家族を失くし、大変な状況に置かれたご遺族が、初めに接するのが我々です。一緒になってそのお気持ちを受け止め、区切りとなる儀式を行って、一歩先へ進むお手伝いをする、やりがいのある仕事でもあるのです」という彼の言葉に両親も祖母も納得するのだ。
こうして美空の志望先は、不動産業から葬祭業へとシフトした。彼女自身はここで自覚していないが、マンションなどをあつかう不動産業と、遺族の区切りとなる儀式を行う葬祭業には、家族それぞれの居場所を作るという意味で共通点がある。美空の就職先の変更は、唐突なものではない。
また、『ほどなく、お別れです』のプロローグは、「姉が美鳥、私が美空」と書き出され、妹が生まれる直前に姉は死んだと後に明確になる。美空の霊感は、幼いままの美鳥がそばにいることに関係しているらしい。シリーズ最初の巻では、妊婦、幼い女の子、若い女性の葬儀が語られる。妊婦の通夜に現れて荷物を美空に渡して消えた妊婦、あの世に行こうとせず霊になってとどまっている幼女、遺影は細身の花嫁姿なのに遺体は運ぶのがつらいほどふくよかだった女性。3つのエピソードには、それぞれ謎や問題があって解決が図られるというミステリ要素がある。
それ以上に各話で焦点となるのは、漆原も語っていた「お気持ちを受け止め、区切りとなる儀式を行って、一歩先へ進むお手伝いをする」ことだ。彼が美空の家族にこのことを話した際は、葬儀の遺族を念頭においていたはず。遺族への対応は、まだ駆け出しの美空より漆原の方が、はるかに長けている。だが、霊感を有する美空は、遺族に寄りそうだけでなく、亡き者が自らの死を受け止めて区切りをつけ、あの世へ進む手伝いもするのである。生者と死者の両方をケアする強力な葬祭タッグだ。
安心感や心地よさをもたらし読者に癒しを与えるヒーリング・フィクションが、世界的な人気を得ている。喫茶店や猫などを題材にした作品が多いが、グリーフケアをテーマにした『ほどなく、お別れです』シリーズもその一種だろう。著者自身が夫を看取った体験から発想されたこのシリーズは、読者に対し、身近な死について考えをめぐらすことを優しくうながす。それは、誰もがいつかは必ず直面する出来事なのだ。

























