【漫画】もしも世界に神話がなかったら? SF的発想も面白い『ゆくゆく神話大全』

この世界には無数の物語が存在する。物語は決して人のためになるものばかりではないが、人間を人間たらしめているのかもしれない。Xに2月中旬に投稿された『ゆくゆく神話大全』は、物語の持つ力を感じられる漫画である。
合理的に設計された街・テリウスでは、今日もいつも通りの変わらない日常が始まる。市内を走る電車の運転手の青年は指示通りに職務を全うしているが、謎の少女・ミルチャを乗せることに。風変わりなミルチャにペースを乱されつつも、いつもと変わらない日々を送ろうとするが――。
幻想的かつ親しみやすい本作を手掛けた上野キミコさん(@uenokimico)に、制作の裏話などを聞いた。(望月悠木)
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着想を得た作品
――今回『ゆくゆく神話大全』を制作した経緯は?
上野:神話や民俗学が好きで、ルーマニア出身の宗教学者ミルチャ・エリアーデの『世界宗教史』を読んでいて、「主人公が神話を集める話にしよう」「主人公が集める神話自体もオリジナルで考えたら、世界をまるごと創造できて面白いのではないか」と考えました。ちなみに、主人公ミルチャの名前もミルチャ・エリアーデから拝借していますが、ルーマニアでは男性の名前なんですよね。
――神話を探す女の子の物語でしたね。
上野:始めは女の子があちこち旅をする牧歌的なファンタジーを考えていて、あまりSF要素はない世界観でした。ただ、普通に描いても新しさがないというか、「今この世の中で自分がこの作品を描く意味は何なのか」と考えるようになりました。そこで、未来とか社会的な要素を入れたくて、SF小説をいろいろと読んでいく中で、ダン・シモンズの『ハイペリオン』から着想を得ました。
――どういった着想を得たのですか?
上野:この作品は宗教が重要なテーマになっているのですが、「遠い未来の世界では現在の宗教の概念は形骸化して衰退しているのか」「それとも全く新しい宗教が生まれているのか」「そんな世界で人間にとって神様とはどんな存在なのか」といったことを考えるうえで、とても参考になりました。
――また、テリウスに合理的かつ徹底的に管理されている、“エデンの園”のような街を舞台にしています。舞台の世界観はどう構築していきましたか?
上野:SF作品といったら手塚治虫先生の『火の鳥 未来編』が永遠の憧れです。そんな雰囲気を描きたかったのですが、社会システムや町の構造などの設定を自分一人で考えるのは限界があるので、ChatGPTに相談しながら構築していきました。例えば「人口〇〇人が生活するのに必要な電力量はこれくらいで、町の規模はこれぐらい」などの物理的な設定を考える場面でAIを積極的に活用しています。
光と影のコントラストの描き方
――ミルチャや運転手の青年はどのように作り上げましたか?
上野:ミルチャは、私の好きな漫画『魔法陣グルグル』(スクウェア・エニックス)のククリを思い浮かべながら考えました。主人公なので物語を推進させていく力を持ちつつ、マイペースながらも、どこか不思議な雰囲気のあるキャラクターです。青年の名前は設定では考えていましたが、「必要ない」と思ったので作中では出していません。ミルチャに翻弄される役なので、ミルチャと反対の冷めた感じのキャラクターです。
――光と影のコントラストが印象的な街並みでした。街や建物を描くうえで意識したことは?
上野:荒野の中にぽつんと現れるエデンの園のような雰囲気を出したかったので、高低差があって狭い路地が魅力的な街をChatGPTに挙げてもらい、ポルトガルのリスボンの街を参考にして描きました。
――ラストの星空のシーンは、これまでの機械的な明るさではなく、自然の明るさを感じられました。
上野:自然の明るさを感じてもらえて良かったです。星空や炎などの揺らぎがある自然物の明るさはフリーハンドで描いたカケアミで、電気の明るさは「CLIP STUDIO」のツールを使って描いています。
――今後はどういった作品を手掛けていく予定ですか?
上野:2月27日から「カドコミ」(KADOKAWA)にて新連載『本聴きのスピカ』が始まりました。「本の声が聴こえる」という能力を持つ女の子がファンタジー世界を舞台に製本師を目指す物語です。本をとりまく人たちの人間ドラマなども描いていきますので、ファンタジー好き、本好き、マンガ好きのみなさんに読んでほしいです。
■『本聴きのスピカ』
カドコミ:https://comic-walker.com/detail/KC_008421_S
ニコニコ漫画:https://manga.nicovideo.jp/comic/76582
■上野キミコ
会社勤めのかたわら、「コミティア」を中心に同人誌と商業誌で漫画作品を発表している。
これまでに発表した同人誌は25冊ほど。
コミックス『はらペコ放浪記』(少年画報社)全2巻発売中。
2026年2月から「カドコミ」(KADOKAWA)にて『本聴きのスピカ』の連載がスタートした。



















