ペットは人間と暮らして幸せなのか? 飼い主の後悔も丁寧に描く『神様のペットカフェ楓庵』を小動物メディア編集長が読む


そんな動物と暮らすことの良さが、『小江戸・川越 神様のペットカフェ楓庵 大切なあなたに伝える、ありがとう。』(友理潤/マイクロマガジン社)にはまるっと詰まっている。すでに動物を飼っている人は共感することばかりだろうし、飼っていない人にとってはリアルに体感できて、心が温かくなることだろう。
本作の主人公は広告代理店に勤める美乃里。お人好しすぎるため人からは愛されつつも、会社というコミュニティでは少し損をしている役回りだ。ある日給料カットに遭ってしまい、新しい仕事を探す中で、埼玉県川越市にあるカフェ「楓庵」で働くことに。
そこは何らかの理由で“お別れ”ができない飼い主とペットが訪れる場所で、ほんの少しの間、ペットと飼い主は会話をすることができる。美乃里はそのカフェで、お客様のことを見守り、優しい“お節介”もしつつ、やがて自分自身の心残りにも向き合っていくことに……。
もしも、ペットの動物と最後に一度だけでも話すことができるとしたら……。
楽しかった思い出や出会った最初の頃、「どのおやつが美味しかったの?」「何の遊びが好きだったの?」などなど、ペットと過ごした日々の「幸せ」の話になるだろう。お別れは悲しいけれど、最後に会話できるならたくさんのことを話したいし、聞きたいと思うはず。
でも、本作に登場する「楓庵」のお客様たちは、少し違った様子。言いたいことを言えないままお別れを迎えようとしていたり、飼い主とペットの犬や猫がなぜか険悪だったり……。ひとことで言えば、みんな“後悔”をしている。
その“後悔”とどう向き合うか? というのはぜひ本書を読んでみてほしい。筆者が特に素敵だと感じたのは、動物たちはいつだって人間のそばにいて、いつだって寄り添ってくれるということを改めて感じたことだ。
それは「癒し」という一言で片付けてしまえるようなものではない。仕事がうまくいかなくて辛いときや、人間関係で失敗して悲しいとき、そんなときにペットはひとりごとのような愚痴を延々と聞いてくれたり、慰めてもらうことがある。現実ではまだ言葉を交わすことは叶わないけれど、日々の生活を送る中で「常に一緒にいてくれる」ペットは、生きる救いになる。私たちがかける愛情以上のものを、ペットはしっかりと返してくれている。
それに本書に登場する美乃里にも心を動かされた。美乃里は動物カフェで働いているが、ペットを飼ってはいない。けれど、カフェにくる客が交わす動物との会話を通して、美乃里は行動が変わっていく。人間と動物との絆や愛情は、周りにいる人にも“温かさ”として伝播していく。それこそが、筆者が小動物のメディアを運営している理由でもあると改めて気付かされた。
本書を読み、思わず何回も涙を流してしまったし、登場する犬や猫の体温が毎回ひしひしと伝わってくるようだった。こんな読書体験ができたのは、筆者が動物を飼っているからだけでなく、飼い主とペットが織りなす優しい会話劇がそうさせたのだろう。
さらに「楓庵」の物語ではペットや人間たちの“別れ”が描かれる。筆者もペットロスを経験しているので、その喪失感が痛いほどよくわかる。どれだけ悲しくとも、もう過去には戻れない。一緒に過ごした日々は美しい記憶として残り続ける。それはペットのみならず、人間関係だって同じ。
動物とふれあったり動画で癒されるのもいいけれど、本書を読んで、温もりとペットの大切さを心から感じてみることもよいだろう。
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