心理カウンセラー・中元日芽香が小説『親愛なるカンパニュール』に感涙 乃木坂46時代に感じていた「10代の悩み」とは?


(柑実ナコ/ことのは文庫)
オトナ女子のための文芸レーベル「ことのは文庫」より『親愛なるカンパニュール あなたに花を贈る理由』(柑実ナコ/ことのは文庫)が発売された。
「200%号泣小説」と銘打たれた本作は、周囲からの期待や「自分はこうあらねば」という思いに苦しんできた主人公・桔帆(きほ)がバイト先で出会った東明(東明)や大学院生・綾瀬(あやせ)との共同生活を経て心の傷を癒やし、家族・友人とのわだかまりを解きほぐしていく物語。
元・乃木坂46という肩書きを持ち、自身も似た思いに苦しめられた時期もあったという心理カウンセラーの中元日芽香に本作を読んでもらった。
「号泣小説」と言われると逆に泣けない?
──まずは『親愛なるカンパニュール あなたに花を贈る理由』を読んだ、率直な感想を教えてください。
中元日芽(以下、中元):温かさと美しさが印象に残る作品だなと思いました。登場人物の名前もきれいですし、お花の絵が浮かぶ描写や、田園風景を想像して癒されながら読みました。読んでいて心がポカポカしましたね。
──ストーリーについてはどのように感じましたか?
中元:登場人物の心と心がぶつかるようなやりとりや会話もありますが、ハラハラするわけではなく、優しい人同士のぶつかり合いだから、きっといいお話になっていくんだろうなと、安心しながら読めました。登場人物の仲が深まる様子や、主人公の桔帆ちゃんがだんだん心を開いていく姿に、読みながら思わず「頑張れ!」と応援していました。
──本作は「200%号泣小説」と謳われています。実際に中元さんが涙したかは別として、特にグッときた部分はありましたか?
中元:事前に「200%号泣小説」と言われたら、逆に泣かないんじゃないかと思ってしまっていたのですが、そんなことはなくて。特に終盤の両親と桔帆ちゃんの会話はグッときてしまいました。お互いに嫌い合っているわけではなく、でも言えないことがあってすれ違って……という長年の積み重ねが、言葉によって再び近づいていって。同じような経験があるわけではないのですが、桔帆ちゃんが気持ちを伝えられてよかったなと、すごく心が動かされました。

──読んでいて「桔帆ちゃん、よかったね」と思う場面の一つですよね。
中元:はい。そこで涙腺が緩んでしまって、そのあとの城山夫妻が温かく送り出してくれたところでも思わず泣いてしまいました。「自分が心を閉ざしている時期に温かさを向け続けてくれた人たちって貴重だよなぁ」と、自分の経験も思い返して。桔帆ちゃんの心がほぐれていく様子が伝わってきて、「よかったな」と思える終盤でした。
──今、ご自身の経験も思い返しながらというお話もありましたが、特に共感できた部分やご自身に似ているなと感じた登場人物はいましたか?
中元:「こうでいなければならない」「こういうふうに振る舞ったほうがいいんだろうな」「周りはこうしてほしいんだろうな」と思う桔帆ちゃんの気持ちがすごくわかりました。私も、特に10代のときはそれを強く意識しすぎてしまっていて。
──そういうお仕事をされていましたもんね。
中元:おそらくそういう背景もあると思います。もともと、自分の「こうしたい」という気持ちよりも、他人の期待に応えたいという気持ちが勝ってしまう性格で。自分はそれが正しいと思ってやっているけれど、どんどんがんじがらめになっていって。行動していった結果、「周りは私のことを知らないかもしれない」というちょっと寂しさが生まれてしまう。理解してほしいけど、どう表現したらいいのかわからないという不器用な感じは、私と重なるところがあるなと思いながら読んでいました。
悩める人にかける言葉は
──そんな桔帆は、シノさんや綾瀬、りおなどと出会って変わっていきましたが、中元さんはがんじがらめになっていた自分をほぐしてくれた存在やきっかけは何かありましたか?
中元:心理学で勉強したことや、今のカウンセラーという仕事をする上で勉強したことにすごく助けられたような気がします。勉強しながら、「人との関わり方を見直した方がいいな」とか「自分を大切にできていなかったな」と思えて。「自分がやりたいようにやって、その上で人がどう受け取るかは相手にお任せしよう」と思えてからは、自分の中で殻が少しずつ破けていきました。

──それこそ、桔帆と同じく周りからの期待や「こうあらねば」といったことで悩まれている方も、現実には多くいると思います。そういった方に「こう考えると楽かもしれないよ」のように伝えられる処方箋のようなものはあるのでしょうか。
中元:実際にご相談いただく方の中にも、そういったしがらみやギャップで悩んでいる方がいらっしゃいます。この本を読んでいても感じたのですが、周りの人は勝手に期待したり「こうあってほしい」と理想を抱いたりするものですが、その声は一時的なもので、簡単に覆るんです。桔帆ちゃんも、期待通りの振る舞いをやめたら、最初は「期待通りじゃなかった」と離れていった人がいましたし、現実にもそういうことはあると思います。だけど、自分らしさを押し殺してまで期待に応えようとし過ぎず、自分の振る舞いたいように振る舞うということを意識できると、周囲とのギャップが少なくなって楽になると思います。
──とはいえ、その考えを変えるのって簡単なことではないですよね。
中元:自分から変えるというのは勇気がいることですし、その考えに気がつくのには時間がかかることもあります。だからこそ、桔帆ちゃんにとってのりおちゃんみたく、自分の内面や人間性を見てくれる人の存在が大切なんだと思います。友人だったり、家族だったり、自分らしくいられる存在を大事にしてほしいなと思いました。
──自分の中で、自分らしさが確立できるといいんですね。
中元:話しながら思いましたが、特に10代はそれすら迷う年頃ですよね。まず「自分はどう生きていきたいかな」とか「どう振る舞っていきたいかな」と考えることを大事にしてほしいです。
──中元さんがそんな自分らしさを見つけられたのは、心理カウンセラーを始めてから?
中元:そうですね。でも10代の頃の、みんなが求める自分に応えるというのも嫌いではなかったんです。「気が利くね」とか「優しいね」と言ってもらえて、みんなが私といることを心地良いと思ってくれていることも嫌いではなかった。ただ一方で、みんなの声を自分の中に取り込み過ぎて、自分自身がどうしたいのかが薄まっていってしまって。だから今は、自分の声も大事にしつつ、みんなの声も聞く余裕があったら聞くというバランスに変わったような気がします。
──大事なのは、そのバランスなんですね。
中元:はい。まずは自分がやりたいことをする。その上で、周りの声も聞く。この順番を間違えないようにしたいなと思っています。
心理カウンセラーとして失敗した経験は?
──先ほど、両親との場面に思わずグッときたというお話もありましたが、作中では保護者側が接し方に迷っているという塩梅もリアルですよね。身近に悩んでいる・苦しんでいる人がこうすべきといったものはありますか? ケースバイケースかと思いますが、共通して大事だと思われるものなどがありましたら教えてください。
中元:とても難しい問いですね。私なりに考えた答えの一つは、“言わなくても伝わっているだろう”という思い込みが、すれ違いを生むことになるんだろうなということ。親子でも、「普通」とか「当たり前」という感覚は違うもの。同じ景色を見て生活していると、ついその価値観は似たようなものなのかなと思ってしまいますが、実際には親子でも兄弟でも違ったりする。だからそれを意識して、日頃から家族の言葉をキャッチできるような関係性が築けていたら、決定的なすれ違いが起こる前に話し合いができるのかなと思いました。でも……難しいですよね。

──確かに桔帆とご両親も、大きなトリガーがあったわけではなく、少しずつすれ違っていったしまった感じがありましたし、難しいですよね。
中元:きっと、桔帆ちゃんとお兄さんに同じ言葉を投げかけてもキャッチの仕方は違ったでしょうし、そこを理解するためにも日頃から会話を重ねることが大事なのかなと思います。
──悩みの内容が似ているように見えても、人によって解決へのアプローチが全く違う、ということは多々あるかと思います。中元さんが心理カウンセラーとして相談を受ける際に大事にしていることはなんでしょうか?
中元:「型に当てはめない」「私の持っている尺度で考えないようにする」というのは意識しています。目の前にいるクライアントさんのお話を聞いて、一人ひとりにあった声かけや、一人ひとりにあったやり方を一緒に考えるということは大切にしています。例えば「仕事に行けない」という悩みでも、「この悩み、前にも持っている人がいたな」と思うのではなく、詳しい聞き取りをして、相談者さんの性格や背景にあわせて一緒に考えます。
──大切なことですね。
中元:はい。あとは「クライアントさんより先に感情のラベルを貼らない」。例えば「こういう出来事がありました」と言われたときに「それは大変でしたね」とか「それはつらかったですね」と私が先に言ってしまうと、「これは大変な出来事だったんだ」と思ってしまうのですが、そう思わせてはいけないんです。そうではなくて、この方はその出来事をどう捉えているのか、どう解釈しているのかを聞くことが大切で。
──「それは大変でしたね」などは思わず言ってしまいそうになりますが、その方法は何かで学んだのでしょうか? それともやっていくなかで気づいたことですか?
中元:やりながら気がつきました。確か私が実際に言ってしまったんです、「それはつらかったですね」と。そしたら「そう聞こえますか?」と言われてハッとして。「ご本人はつらいと思っていなかったんだ」「私が勝手に色をつけてしまったな」と思って。それ以降、ミスリードをしないような話の聞き方を意識するようになりました。友達の悩みを聞いているときなど、初手に感想が出るというのはよくあることだと思うんです。だけど、カウンセラーとして話を聞くのは友達として話を聞くのとは違う。カウンセラーというのは、相談者さんが気持ちを整理するためのお手伝いをする人だと思っているので、私が先に立たないようにする、後ろからついていくようなイメージでお話を聞くようにしています。
──なるほど。

中元:この作品の序盤に、私にとってハイライトと言ってもいいくらい好きなところがあって。東明先生(シノさん)の「傷の大小なんか知らない。聞いてないよ。だって梶さんの中に、傷は確かにあるんでしょう」という言葉。それは私がカウンセリングする上でも大切していることです。自分で「周りからすると大したことない傷なんだろうな」とか「よくある葛藤なんだろうな」と思っていることはよくありますが、周りからどうだとかみんなが通る道だとか、本当は関係なくて。その出来事を、目の前の人はどう感じたのか。それを大事にしているので、先生の言葉にハッとしましたし、それを知っている先生はきっと、いろんな痛みがわかる方なんだろうなとも思いました。
──シノさん、とても優しいですよね。
中元:先生の言葉って、受け取ったときもそうですが、「あのとき、ああ言っていたな」と思い返してじわじわ効いてくるものなんだろうなと思いました。
30歳を目前に感じた心境の変化
──そういう意味では、中元さんのお仕事も似たところがあるかもしれないですね。
中元:そうかもしれないですね。講演会をやらせていただく機会があるのですが、そのときに思っていることの一つに、目の前にいる方に刺さる言葉じゃないかもしれないけど、悩んだときに「中元さん、こんなこと言っていたな」と思い返してもらって少しでも力になれたらいいなということがあります。そういった意味でも、言葉をたくさん知っている東明先生は素敵だなと思います。
──先ほど、自分らしく生きる、自分がやりたいことをやることが大事だというお話がありましたが、中元さんはこの先、どんなことをやっていきたいと考えていますか? 産休目前なので、もちろんまずは元気なお子さんを出産されることが一番ですが。
中元:今、私は29歳……29.5歳くらい。20代の頃は、「中身のある大人に」とか「言葉に重みが出るような経験をしたい」「年齢だけを重ねるのではなく、確かに1歩1歩踏みしめて、その結果の30歳だったと思えるように精進していきたい」という意気込みで生きていたのですが、ついにその30歳が見えてきて。自分のことを一番に考えていた20代でしたが、これからは、周りの人たちに何ができるか、何を注いであげられるかを考えていきたいなと思っています。カウンセラーとしても多くの人に手を差し伸べられるような人でありたい。これまで、人にたくさん“もらった”という感覚があるので、今度はお返しする番だなって。
──特に、相談された方にとっては、中元さんにいろんなものをもらったと感じていると思うのですが、ご自身としては“もらってばっかり”という感覚なんですね。
中元:そうですね。「助かりました」とか「話を聞いてもらえてよかったです」と言っていただくことがたくさんありますが、私もその言葉にすごく励まされていますし、その言葉をもらうことは「この仕事をしてよかったな」と思う瞬間の一つだったりするんです。なので今後は、無条件でいろんな人に注げるような生き方をしていきたいなと思っています。






















