愛犬や愛猫との最期のお別れ「一緒にいて幸せだった?」 涙なしには読めない『神様のペットカフェ楓庵』

愛犬や愛猫とのお別れ、最期に話せたら?
『小江戸・川越 神様のペットカフェ楓庵』(ことのは文庫)

 現在、約679万頭の犬、約915万頭の猫が人と共に生活している(2024年/ペットフード協会)。「もしも愛犬の、愛猫の言葉が分かったら」「会話できたなら」と一度は考えたことがある人も多いのでは? 彼らとの最期を経験した人ならば、なおさら。「一緒にいて幸せだった?」と聞きたくなるだろう。

 オムニバス小説『小江戸・川越 神様のペットカフェ楓庵』(著:友理潤/イラスト:ゆいあい/ことのは文庫)は、愛犬、愛猫の言葉を聞くことのできる、“神様”がいるという不思議なカフェ「楓庵(かえであん)」が舞台。職場での給料カットにより、アルバイト先を探していた30歳手前の女性・美乃里が、謎の少年ソラと出会ったことをきっかけに楓庵でアルバイトを始めたことから物語の幕は上がる。

最期の1時間、ペットと言葉を交わせる場所

 それぞれの理由により、うまくお別れができていない飼い主とペットが、特別な招待状を手に、大正浪漫のお店が連なる小江戸・川越でひっそりと営業するカフェ・楓庵にやってくる。チリリンと鈴の音が響くドアを開けて迎え入れるのは、いつも優しくダンディな店長の八尋(やひろ)とソラ。そして、新人アルバイトの美乃里だ。

 物語は五幕にわたって進む。レオという勇ましい名前ながら、可愛らしいピンクのフリフリの服を身に着けたポメラニアンとご婦人、せっかくの機会にもかかわらず、言葉を交わさない保護猫フクとおじいさん。飼い主さんのことが大好きなゴールデンレトリバーのエトワールと、その飼い主、ではなく飼い主の妹。各々が事情を抱えていそうだ。

 楓庵の情報は、ネットで検索しても出てこない。入れるのは、招待状を手にした人だけ。そして大きなヒミツがある。楓庵は「ペットと飼い主さんが、最期の1時間だけ言葉を交わすことのできる不思議な場所」なのだった。

大人の女性だからこそ、楓庵との出会いが必要だった

 周囲になかなか本心を伝えられずに、“明るくて気のいい人”を演じてきた美乃里は、高校時代の親友との別れに後悔を抱えたままだった。楓庵のヒミツを、最初は信じられなかった美乃里だが、別れに向き合っていく飼い主やペットたちの姿を目のあたりにして、心を溶かしていく。

 年齢と経験を重ね、ある程度自分というものが固まってしまっている大人の女性だからこそ、自身と、過去と向き合い、想いを口にし、行動していくためには、楓庵との出会いが必要だったのだと思える。楓庵にも美乃里が必要だった。彼女の言動は、このままでは別れとともに時を止めてしまいそうな人々の時間を、「ありがとう」の言葉とともに前向きなものへと押していく。

 そして美乃里と楓庵を繋いだソラ。八尋から「ソラ様」と呼ばれている少年の姿をした彼が、「神様のペットカフェ」の“神様”であり、お別れの準備が整ったペットを黄泉の国へと連れていく役割を務めていた。

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