ふたりの少女が時間を超えて仲を深めていくーー伴名練の新作『百年文通』は百合×時間SF

伴名練の『百年文通』は、ちょっと変わった形で連載された。本の「あとがき」で作者が記しているので引用させてもらおう。
「『百年文通』は、漫画雑誌『コミック百合姫』二〇二一年一月号から二〇二一年十二月号まで、イラストレーター・けんしん氏の挿絵と共に表紙連載された作品です」

昔の劇画誌では、よく連載小説が掲載されていたが、近年では見かけなくなった。それが女性同士の恋愛や友愛を題材とする『コミック百合姫』で行われたことに驚いた。しかも表紙連載である。たまたまだが書店で『コミック百合姫』の表紙を見て、伴名練の小説だと知った私は、あわてて1月号を購入。以後、12月号まで買い続けたものだ。現物が手元にあるのでいうが、小説の文章を含めて、表紙のレイアウトはちょくちょく変わった。それも楽しい。いろいろと興味深い連載であったのだ。その『百年文通』がようやく書籍になったので、久しぶりに再読。優れた百合小説にして、優れた時間テーマSFであることを、あらためて確認したのである。
女子中学生の小櫛一琉は、ある屋敷の部屋にあった、机の引き出しを開けた。なにもないと思っていたが、そこには手紙があった。宛先はないが、末尾に「大正六年十月七日 日向静」とある。どうやら百年前の手紙らしい。ちょっとしたことから、引き出しを通じて静とやり取りができると知った一琉。自分よりひとつ下の静と、手紙のやり取りを始める。偶然、スマホが引き出しに入ってしまつたが、これも静のもとに送られる。どうやら引き出しに入るものなら、何でも送ることができるようだ。静を心配する姉の寿々の妨害も乗り越え、ふたりの少女は時間を超えて仲を深めていくのだった。
本書の「あとがき」だが、実質的には時間テーマSFの紹介である。そこで最初に出てくる作品が、ジャック・フィニイの短篇「愛の手紙」だ。時間を超える手紙を使った、男女の切ない恋愛を描いた名作である。SFではなくファンタジーだが、時間SFを語る上で、この作品から始めるのは正解だろう。本書も、「愛の手紙」を意識したファンタジーかと、読み始めは思った。しかしすぐに〝媒介機関〟という、時間と歴史に介入しているらしい存在の通達文が出てきて、時間SFであることが提示される。また、一琉が静にクレープの作り方を教えたことで、大正時代にクレーブが誕生。ちょっとした人気となる。これによる歴史改変やタイムパラドックスを一琉が心配するところは、いかにも時間SFらしい。
だが、クレーブなどは可愛いもの。ある事実を知った一琉は、大きな決断を下す。ここから物語は、予想外の広がりを見せていく。それが何か、一琉と静がどうなるかは、読んでのお楽しみ。互いを大切に思う、ふたりの少女の行動を堪能していただきたい。
一方で本書は、一琉の成長譚にもなっている。彼女は外出するときにマスクが手放せないでいる。詳しいことは省くが、ひとつ下の妹の美頼に端を発した世間の反応が、その原因になっている。妹に複雑な感情を抱く一琉が、やはりひとつ下で、自分のことを「イチルねえさま」と慕ってくれる静と強い絆を結び、しだいに変わっていくのだ。
ちなみに美頼は、かなり癖のあるキャラクターで、いろいろと姉にちょっかいを出してくる。美頼=未来であり、過去の存在である静との対比になっていることに注意を向けたい。一琉を、未来と過去が引っ張り合っているのだ。このように本書は、登場人物の名前からして、考え抜かれていることが分かる。隅々まで精緻に組み立てられた物語世界も、大きな魅力になっているのだ。
なお「あとがき」の後に、巻末付録として「時間SFガイド(二〇一〇から二〇二五)」が付されている。どれだけSFを読んでいるのか想像もつかない作者の挙げた作品は、すべて面白そう。個人的には、中村融編の『時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選』を取り上げてくれたのが嬉しい。このアンソロジーに収録されている、ミルドレッド・クリンガーマンの「緑のベルベットの外套を買った日」が、実にいい話なのだ。実作だけでなく、他作品の紹介も加えて、時間SFの素晴らしさを教えてくれる一冊なのである。























