OKAMOTO’Sオカモトショウ連載『月刊オカモトショウ』
『光が死んだ夏』に『彼岸島』 オカモトショウが今こそ読みたいホラー漫画を語り尽くす

ロックバンドOKAMOTO’Sのボーカル、そして、ソロアーティストとしても活躍するオカモトショウが、名作マンガや注目作品をご紹介する「月刊オカモトショウ」。
今回は、残暑残る季節にぴったりのホラー作品をピックアップ。アニメも絶賛放送中の『光が死んだ夏』(モクモクれん/KADOKAWA)と、20年以上続く人気シリーズ『彼岸島』(松本光司/講談社)について、実は怖がりというオカモトショウが魅力を語ります!
『光が死んだ夏』を夏に読む=NYでヴェルベット・アンダーグランドを聴く?
——今回はホラー系の作品を紹介していただきます。そもそもショウさん、ホラーマンガは好きなんですか?
好きです。楳図かずお、伊藤潤二、諸星大二郎のマンガも読んできたし、世代的には中学生くらいのときに(映画)『呪怨』が盛り上がってて。実は怖いのが苦手で、ホラー映画を見るとトイレに行けなくなるタイプですけど(笑)、でも観ちゃいます。ホラー系のコンテンツも相変わらず人気というか、多いですからね。

——そうですよね。まずは「ヤングエースUP」で2021年に連載が始まった『光が死んだ夏』(モクモクれん)。今年の7月からアニメが放送されるなど、大きな話題を集めています。
「マンガ大賞2023」にもノミネートされてますからね。前から好きなマンガだったんですけど、この夏、最初から読み直して「やっぱり面白いな」と。うだるような夏の暑さのなかで読むのがピッタリですね。新宿のマンガ喫茶で『闇金ウシジマくん』を読んだり、ニューヨークでヴェルベット・アンダーグランドを聴くとバッチリなのと同じです(笑)。『光が死んだ夏』の舞台は関西の山間部で、村社会の恐怖みたいなものが描かれていて。ちょっと話がズレますけど、「洒落怖」という2ちゃんねるのオカルト版スレッドがあったんですよ。「きさらぎ駅」とかが有名なんですけど、僕らが10代の頃にネットの怖い話がけっこう流行ってて。『光が死んだ夏』を読んだとき、ちょっと「洒落怖」のことを思い出したんですよね。日本の地方で語り継がれる怖い話だったし、そういう舞台装置を使いつつ、10代の男子高校生の同性愛的な側面も描かれていて。その混ざり具合が絶妙ですね。
——『光が死んだ夏』の主人公は、高校生のヒカル(光)とよしき。光は山で失行方不明になり、1週間後に戻ってくるのだが、よしきは「お前やっぱ光ちゃうやろ」と見抜く。つまり光は、“ナニカ”に入れ代わり、ヒカルとして生活している……というのが冒頭のストーリーです。
「光じゃない」と気づくんだけど、そのまま一緒にいるというのがまず日本的ですよね。よしきは光が死んでると知ってるのに、ヒカルと一緒の日常が戻ってきたことを優先して受け入れてしまうんです。しかも光の形をして、ヒカルになっている“ナニカ”はどうやら神様的な要素を備えていて。願いを叶えてくれるかもしれないし、もしかしたら人を殺めてしまうかもしれない存在なんだけど、それも日本特有というか、一神教の世界ではありえないですよね。
——曖昧な存在を何となく受け入れるという。確かに日本っぽいかも。
そこにさっきも言った同性愛的な要素が加わることで、読者としても「そうなるよね」と納得できるというか。よしきがどれくらい(自分の性的指向を)自認しているかはわからないけど、好きな子が戻ってきてくれたら「一緒にいたい」と思うのは自然なので。
——確かに。『光が死んだ夏』の舞台になっている村、霊的なものが“見える”人が何人もいますよね。クラスメイトの女の子だったり、ヒカルと「一緒にいない方がいい」とよしきに忠告する主婦だったり。
主婦はオカルト界隈では有名な人で、ストーリー的にも重要なんですよ。単行本のなかに作者のQ&Aコーナーがあって、読者からの「“見える”人が多すぎないですか?」みたいな質問もあって。“霊能力は遺伝するから、この土地で霊感がある人は辿っていくと血筋が近いのかもしれない”という答えでしたね。ストーリー的にはどんどん謎解きになっていくんです。この村に伝わる土着的な信仰がなぜ始まったのか、どうして“ナニカ”が人間の世界に来てしまったのか。たぶん童話とか民話に近いんですけど、村を守るために、外の人には言えないようなことを続けていたんですよね。それを隠蔽しつつ伝えるために物語として語り継いでいて。お年寄りはそのことを知ってるんだけど、決して口にはせず、閉鎖感だけがあるという。そういう民俗学的な要素も日本のホラーの大事なところだし、『光が死んだ夏』にもそこはちゃんと入ってますね。
『彼岸島』はライブ感を大事にしている
※以下、一部「彼岸島」シリーズのネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
——続いては『彼岸島』(松本光司)。「週刊ヤングマガジン」で連載が始まったのが2002年。『彼岸島』『彼岸島 最後の47日間』そして現在も連載中の『彼岸島 48日後…』とシリーズ化されています。

2002年ということは、僕らは中学生ですね。『彼岸島』を始めて読んだのは確か高1のときで、クラスの誰かが学校に単行本を持ってきたんですよ。みんなで回し読みしてたんですけど、そこで「面白い!」ってなって。たぶん『GTO』もそういう感じで読んだが気がする(笑)。
——青春の一コマですね(笑)。
そうですね(笑)。その頃からヤンマガも読み始めて、『彼岸島』も連載で追いかけるようになって。ジャンル的には“吸血鬼サバイバルホラー”という感じなのかな。「彼岸島」という島があって、そこには吸血鬼がたくさんいるんですよ。明(主人公の宮本明)が行方不目になった兄(宮本篤)を探すために彼岸島に行くんですけど、大正から昭和初期あたりのような服装の農民たちが吸血鬼になっていて、次々と襲ってくるという。ジャパニーズホラーの定型ではあるんですが、「吸血鬼がいる世界で、どう生き抜くか」を長尺のストーリーで描いているのが『彼岸島』の面白いところで。そのなかで「そんなのアリ?」ということがいろいろ起きるんですけど……。自分たちの世代の人ならわかるかもしれないけど、「みんな 丸太は持ったな!!」という明のセリフがネットミーム化したことがあるんですよ。要は丸太で戦いに挑むんですけど。
——丸太で戦うんですか?
普通に考えたら、そうなりますよね(笑)。農村なので鍬とかカマで戦おうとするんですけど、だんだん敵も強くなってきて、もっと強い武器で戦わなきゃならないという時に、「丸太だ!」ってことになって、太い丸太をぶん回して吸血鬼をやっつけるんです。絶対振り回せないと思うんだけど、1巻から読み進めていくと、それを何の違和感もなく受け入れられるようになるんですよ。そのコマだけ抜き出すとめちゃくちゃヘンな状態だし、だからネットミームになるんですけどね。
——なるほど。
そういうことが毎週のように起きるんですよ。たぶん作者の松本光司さんもライブ感を大事にしている気がして。もちろん大きなストーリーの流れは決めてるんでしょうけど、細かい展開についてはアドリブ的に進めているところもあるんじゃないかな? それは「ドキドキを毎週用意できている」ということでもあるし、その唐突感が『彼岸島』の良さでもあると思います。
——現在連載中の『彼岸島 48日後…』はどんな展開なんですか?
舞台は日本の本土ですね。日本中にウイルスが撒かれて、吸血鬼だらけになっていて。最強の吸血鬼・雅は今も生きているし、これはネタバレになっちゃうけど、死んだはずの篤が生き返るんですよ。ただ、鬼化した吸血鬼によって産み落とされ直していて、そこにもいろんなエピソードが絡んでて。とにかく激アツの展開になってるし、「え、どういう状況?」ということが続いてます。そうやって信じられないことが起き続けるんだけど、さっき言ったように、ずっと読んでると「そうだよな」と納得させられてしまう。今もずっと面白いのは間違いないし、もしかしたら「前は読んでたけど、最近は追えてなかった」という人もいるかもしれないので、「『彼岸島』、今もすごいよ!」と言いたいです。
ホラー漫画を読みながら聴きたい曲
スクリーミング・ロード・サッチ&ザ・サヴェイジズ「ジャック・ザ・リッパー」(アルバム『Dracula’s Daughter』/1963年)





















